最近いささか衝撃だったのは……、かつて日本のどこでも見られた蒸気機関車(D51-デゴイチ)が、これまた日本のローカル線のどこでも見られたディーゼル車両より、実は、チッコイという事実だった。
鉄道に関してはマニアでもオタクでもないんだけど(ミュージアム展示用の路面電車は造ったコトがある)、たまさか、デアゴスティーニのHOスケール模型を手にする機会があって、両者を並べみて、
「ありゃ?」
驚いた次第。鉄道マニアの方には自明のコトなんだろうけど、こちとら、こたび初めて知ったんで、発した声がチッと大きかった。
ず~~っと、恐竜みたいにズ~タイでっかい蒼古なジャイアントと思い込み、事実、岡山市北区の下石井公園や津山駅前に展示のそれらを眼にするたび、
「でっけ~なぁ」
そう感想していたけど、あらま~ま~、実際はディーゼルより少々小さいのだった。同じ軌道上の乗り物ゆえ幅はほぼ同じながら、ディーゼル車両の方が大きいんだ。
D51の全長19.73m、キハ58の全長21.3m。給水加熱器の覆いが上部で出っ張ってるんで、そこの高さのみD51の方が上だけど背丈も総じてディーゼルの方が大きい。
蒸気機関車はスマートとは無縁の機能の塊り。しかも、ほぼブラック一色ゆえに威圧感が濃く、それが見た目のデカサをいっそう増大させていたのかしら?
青天の霹靂というほどではないにしろ、この事実に面喰らった。
かの『オズの魔法使い』でドロシーやかかし達が恐れおののいた、王国の支配者としてデッカク君臨するオズが、実は魔法も使えない平凡な小男だった実像に、ドロシー達が逆にショックを受けたように……、当方もショックを受けたのだった。
とかいって、愕然として焦燥するというショックじゃ~ない。
「ぁんれま~残念っ」
という程度の衝撃なんだけど、ショックはショックなのであって、いわば鉄道ワールドのビッグ極まる王様だったと思ってたのに、
「そうでもなかったのね、ア~タ」
という奇妙な味わいの残念が、このショックの核心なのだった。
手前のD51が大きく見えるが、レンズのパース(遠近)ゆえデカク見えている
上写真の逆例。一転してディーゼルでっかい……
むろん、蒸気機関車(以下SL)が鉄道の基礎の基礎であり、これなくばヒストリーは紡げないという大物中の大物なのでもあるけど、サイズとしては、ディーゼル車両の方が大きいんだぞ~ん、という現実リアルに、
「何か、チッと、哀しいなぁ」
ガッカリとガックリが合体して、得体知れずの淋しさみたいな、妙な感覚をおぼえたワケなんだ。
ま~、どうでもエエこっちゃ~あるけど、精緻なスケール模型というのは、こういう現実をマノアタリに出来る良い手段なんだねぇ……、と有り難くもあり、一方で有り難迷惑でもあるなぁ……、とも思えたりの今日この頃なのでした。
戦前の写真。昭和10年代か? 着物の着こなしと醸された雰囲気が実にすばらしい。院庄のつづりもイイな。しかし彼女たちもやがて否応もなく、モンペを履くことを余儀なくされ、津山駅から出立する軍服姿の同世代男子らを旗ふって送り出す……、国民総動員のウズにのまれるコトになる。
ちなみに当方が小学生の頃の津山線はSLに引かれる列車か、ディーゼル列車かの、この2本立て。
どちらも『汽車』と呼んだ。
いずれも、津山から岡山市に向かうという場合、満員満席。始発駅の津山で席取りにしくじると岡山までタチンボウ。米子からやって来て津山は途中駅という便だと席取りは絶望……。乗客が多かった。
それがSLならばトンネルに入る直前には、座っている乗客は皆な一斉に窓を大急ぎで閉めるんだった。(空調はない)
そうしないと、トンネルで黒煙が車内に入って来て、えらいメ~に遭う。
で、トンネルを出ると直ぐに窓を開ける。冬場でもそうで、窓を閉じたとはいえ否応なく車内に入った石炭燃焼のムッとする匂いを追い出すんだった。トンネル入りのアナウンスがあるワケでなく、乗客は自主的慣習として窓の開閉をやってるんだった。
そういう次第も経験しているんで、SLよりディーゼル列車の方を好ましく思い、郷愁としてローカルな路線を浮かべると、クリーム色と柿赤色の2色カラーのディーゼル列車の方が念頭に立ち上がる。
ディーゼルの方が我が王様だったというか、そのツートーンの色彩の方がより鮮明にスリ込まれているワケだ、な。
よく聞く言葉として、
「SLは子供たちのあこがれ」
みたいなのがあるけど、それってホンマかしら?
かつて蒸気機関車の滋味をたっぷりこんと味わって身に沁ませているオジサンら~が、子供にかこつけて、そのようなフレーズを捻出しつつ、アチャラやコチャラの公園なんぞに、『自分達の郷愁の拠り所』のSLを……、点々と置いてって自己満足して今に至ってるような気が、しないでもない。
ま~、郷愁というコトを念頭におけば、やがて50年後くらい……、どこかの公園に「アンパンマン列車」が恒久展示され、かつて幼少時に乗ったそれに眼を細めるおじいさんがいないとも限らない。
おじいさんは孫を連れてるんだけど、孫は、
「爺ちゃん、つまらんよ~。もう行こうよぅ」
興味をもたないで退屈するかもしれない。