ひさびさ、国体町のカルチャーホテル。
瀟洒な庭というかグリーンがおごった塀を眺められる喫茶室の窓際で、午後の陽射しを外に感じつつ、
「おやま〜、もうそんなになりますかァ」
2年ぶりな方と打ち合わせ。
とある新規施設の企画サンプルとしての模型依頼。またしばし、新たなカタチと格闘することになる。というか、どう模型に映すか…、しばし難渋ということになる。
しかしフッと懐かしくも思う。
かつて20数年前、このホテルの総支配人とは、2週に1度の割りで会合しては模型談義に花を咲かせたもんだ。彼は密かなれど熱心なモデラーで、第2次大戦中の戦車や飛行機がもっぱら、こちらはSF系な模型に焦点をあてがっていたけど、ウマがあい、話し込むほどに愉しさも増加したもんだった。
同ホテルも経営者が変わり、支配人も今は違うから、あくまでも懐古というワケだけど、こたびといい、妙に模型が接点になるホテル。カルチャーの名が意味深で微笑ましい。
入口界隈の静かな雰囲気は今も昔も好感。
閑話休題。
ちびりっと前だけど、某女よりプレゼントあり。
『読む時間』
という大判の写真集。(創元社刊)
世界あちゃこちゃでの本とヒトの姿をパチリ特写の、労作にして傑作。
全ページ美しい。
絵画のように "絵になってる" 写真続々で気分もゾクゾク。
ローマの街角での1枚。ワガハイが馴染みに馴染むミニで読書中のストリート画家?
これじゃ〜降りられないだろう?、と思ってはいけない。反対側のドアから出るだけのハナシ。ミニは車幅もミニだ、楽勝。
※ サンクトペテルブルグのエルミタージュ美術館にて。どっちが館員だろ?
この本を見つけて買ってくれた愛しのレイラじゃなかった某女のメキキにも、感謝。
しかし、ヒトはいろいろな場所で本や新聞なんぞに接してるもんだなぁ。
そこで負けじと…? ベッドに寝っ転がった自分を自分でパチリ。
美しい写真には遠いけど…、思えばボクの読書は、その8割5分がベッドでのこの横たわり。
2〜3ページと進まぬ内に顔の上に本をドジャリ落として、気持ち良いウトウト気分を張っ叩かれるようなコト、しばし。
この数日の就眠前は、シャーロック・ホームズのパスティージュ。
女流作家ジューン・トムソン描く所のホームズとワトソンの冒険譚。
これら文庫はもう10年ばかし前に読んで楽しんだものだけど、再読するや、ほぼパーフェクトに内容を忘れてる。
しかし、なぜか…、かなり出来の悪いとおぼしき1編だけは、読み進めるうちに記憶が戻り、犯人も結末も思いだす。
良作は忘れ、出来がヨロシクないのを憶えてるというのはケシカラン。
そう自分を叱咤しても知ったこっちゃ〜ない。
再読の哀れと享楽を同時に噛み加味しつつ、ページをめくっちゃ、またウ〜トウト。
睡眠導入剤としての本、大事。
(ちなみに出来が悪いと思ってる1篇は「高貴な依頼人」というタイトル)
デンゼル・ワシントン主演の映画に『イコライザー』というのがある。
本が大きな役割を演じてた…。
超がつくほどに辣腕だった元CIA要員のデンゼルは引退し完全に身を隠し、名も変えて、今はホームセンターに務める。
このギャップがおもしろいけども、過去のCIA時代のしがらみを引きずっているのだろう、夜を眠れない。
悶々のあげく毎夜、近くの深夜食堂に出向いては、本を読んで闇をうっちゃる。
すでによほどの常連、マグカップに湯を入れたのをマスターが黙って持ってくるのは、すなわち不眠を重ねているというコトであって、デンゼルはそれに持参のティーパックを浸ける。
紅茶というより、おそらく日本茶をすすっていると見えるのは、彼のシンプルで規則正しい生活慣習の描写からの…、ボクの勝手な見立て。
やがて同店で、娼婦として客待ちしている未成年のウクライナ系らしき移民の女の子と交流がはじまる。
彼女はロシア・マフィアに雁字搦めにされた身の上。
そのマフィアどもに手ひどい扱いを受けて彼女は入院。…そこで彼女の解放にデンゼルは立ち上がり、一気に痛快無比な活躍が…、という映画だけども、毎夜毎夜、食堂の片隅で本に接するデンゼルが、何とも"絵"になっていたな。
凶悪非道のマフィアや不正警官を叩きのめしたさいのみ、彼は本がなくとも眠れる…、というあたりの描写も良く、最近のデンゼル主演映画では、かなり高得点。
本では癒されない性質の苛烈がこの主人公には流れ、悪漢を倒したさいに見せる贖罪の詫びをからめたような眼の情動、時にその涙がらみの憐憫には、悪漢同様に法に則っといては生きていけなかった自身の過去を悪漢に見ているからで、だから…、スーパーヒーロー的ストーリーの映画ながら、その辺りの空気密度の歪みが高い。
一見は単純な映画にみせ、ホームセンターの店員がセンターの販売道具で戦うというところに眼がいっちゃうけど、実はかなり単純でない…。
少女役の女の子も、かつての『タクシー・ドライバー』のジョディ・フォスターに近似るピカッと光るところがあって好感だし、この2人がけっして恋愛方向に向かわない演出もヨロシかった。
最初の出会いでの会話はヘミングウェイの『老人と海』。
巨大な魚と老人の格闘に人生の意味を語り、魚と老人は実は一体の表と裏のようなものだろうとの自説を開陳するデンゼルに聞き入る少女の眼が、険峻な老齢者のような殺伐とした色だったのが次第に初々しいものへと変化に…、着目。
同時に、『老人と海』の老人の心理を語りつつも、いまだ本が提示する世界に安住できないデンゼルの苦悶をも。
要は、知識としての本が彼の経験値にいまだ追っついていない…、という複雑な、人生の深淵をすでに見てしまった男の悲痛を描いてるようなところがこの映画にはあって、そこがまたチャーム・ポイントだ、きっと。
「イコライザー」とは主に周波数の特性を補正する装置をいうけど、この映画タイトル『イコライザー』は含み幅が大きくて興味深い。
だから、本とのからみでもって、もう1話、続編があっても良いかとも思ったり。
そのためには、当然…、強靱で破綻のない本(脚本)が必需。
とま〜、そのようなオチをつけつつ…、何はともあれ、誰にも、"読む時間"は大事。
※ ローマの街角で。スティーザ・マッカリーの写真の1部を引用。
ちなみに、写真集『読む時間』をプレゼントしてくれた某女はバスタブに浸かって文庫を読むそうな。残念、そこを見たことはないけど、ボクには出来ぬワザ。
同じ町内に住まう若い友人Takeshiも、たしか…、コミックスを風呂で読み耽るそうだから…、方々、器用と云わずばなるまい。
世が明治時代ならこんなドドイツも、有りかと…。
嗚呼チョッポン
やれチャッポンなァ
そっと〜 指で〜
めくりあげェ
髪は濡らせど
紙しめらさず〜 ♪
※ 都々逸(どどいつ)の定型音数律は、七・七・七・五でなくっちゃ〜、ホントはいけねぇ。アタマの2行はお囃子、いわゆる"アンコ入り"として…。(^_^;