四万十川の源流

四国。
四万十川の源流に行ってみた。
川のスタート地点だ。
だから、山の中。
対向車が来たらヤヤ困る細い細い山道をウネウネ駆け上がって、
「ホンマにこの先にあるんかいな?」
訝しんだり心細くなったりしつつもクネッた山道をとにかく車を進ませる。
やがて車道は行き止まり。
そこから歩く。
旭川(岡山の一級河川です)の源流が蒜山にあって、過去にそこに行った経験から、山の中とはいえ比較的スムーズに歩いて行けちゃうだろ〜と思っていたのだけども、四万十川のそれは趣きが違ってた。
ひどくハードではないけども、滝のような細い流れを横切って、さらに上へ進まなきゃいけない箇所が2点、3点ある。
雨が多い時期でもあったし、この日も降ったりやんだりで、自ずと水量も多い。
冷水が深山の岩場をジャジャジャジャ… 流れてる。
雨で泥水のようになっているかも… と心配もしていたけど、冷水は清涼で透明度が高い。
怖がりつつ、冷水が流れる岩と岩の上に足をのせ、チビチビ進んでった。
見上げると樹木。見下げると水が流れる岩場。
涼しい。というか… ヤヤ寒い。
巨岩を一周して螺旋状に登るような場所もある。

鬱蒼と茂った樹木に覆われた岩場。山頂に近いとある場所。そこが源流地点。
冷水を汲んで持参のセットでコーヒーをその場で沸かす。
緑のコケで覆われた岩。濡れた土。
座る所がないから、立ったままコーヒーをすする。
大きな声を出さないといけないくらいに水の流れの音がでかい。
いわゆるガスが、靄が眼の前を流れ、幽玄な気配がいっそう増して、なかなか気分がヨロシイ。
何枚も写真を撮ったり撮られたりしたけど、帰路、車中で眺めてみるに、どうも、深山に分け入ったという感じがない。
危なっかしい濡れた足場の不安定さや、空気の冷感や、樹木の匂い、五感で知覚して感動しちゃった清浄な要素が… 写真の中にはあんまりナイ。
苦労して登った感触が、ナイ。
写真というのは、難しいもんだ。

この源流の岩場で大きなヒキガエルを見た。
男の手のひらよりもでかいのが、石のように不動の姿勢で鎮座してた。
ここまでデカイ天然のものを見るのははじめてだった…。
もし、これがピョンと跳ねたら、広げて伸ばした体長は30センチを越えるんじゃなかろうか…。
変に観光地化されていないから、カエルは登山客の我々に怯えない。
カメラを近づけても動じない。
一瞬、チラリと眼を動かし、
「なんだ、iPhoneで撮るんか」
そんな様子でまた視線をそらし、無関心を装った。
いい出会いだった。

なにより、冷気ある深山の清水を沸かしたコーヒーが美味しかった。
苦みが深く、胃に入るやたちまちに四肢に浸透し、樹木と水に同化するような感覚も味わえた。