無能の人

 

 過日、郊外の大型総合スーパー、東区東平島の「ゆめタウン 平島」に出向く。

 入店するのは10数年ぶりかいねぇ。

 外観は変わらねど、テナントは色々と変わったようで、フジヤのケーキ・ショップもある。

 昨年にオープンしたようで、普段は率先して甘いモノを買ったりはしないけど、綺麗にレイアウトされたフジヤ・ブランドに興をひかれ、ドラ焼きなんぞを手にする。

 ポコちゃんが刻印されたのや、ペコちゃんのも買う。

 気持ちよい応対のフジヤの後、1階食料品売り場を一巡して、晩のオカズのシシャモなどアレコレ買い求めたけど、値札が手描きのモノが多く、それも急ごしらえっぽくて、判りづらく、かつ貧相にも見えて、

「何でや?」

 訝しみつつ、

「ドンクサイなぁ……」

 と、ひそかに悪態をついてしまった。

 でも、翌々日だかの新聞の折り込み広告を見て、合点した。

不正アクセスによるシステム障害

 が原因なのだった。

 告知の文字を見て、なんともはや、悪態気分を湧かせて申し訳なかったなぁと心の内で平謝り。

 

 事件は2月15日に発生し、復旧予定は5月1日と書いてある。

 かなり大規模に、壊滅的にヤラレているんだろう。

 平島店だけでなく、邑久店や福山店など全国191店舗が同じ状態らしい。

 見ず知らずの何者かが同社のメイン・システムに入り込み、大事なデータを勝手に暗号化してアクセス不能にし、復旧させたいなら「身代金」を払えというランサムウェア攻撃だったよう想像できるが、そのあたりの消息は報じられていない。

 国内からの攻撃か他国からの攻撃かも判らないし、警察も動いているとは思えるけど、容易でない事態が進行しているのは判る。

 

 システムが機能不全なら、値札表、バーコード、レジ、会員さんのカード発行や割引、ポイント、などなどなど一切が連動していようから、お~ごとだ。

 ゆめタウンを経営のいずみグループの首脳陣は胃がデングリ返る暗澹たる思いに違いない。

 けどイチバンにナンギしているのは店頭にいるスタッフの皆さんだろう。

 値札を手描きし、閉店後の決算も、コンピュータなら即座ながら、人力で集計し、何度も引き算足し算繰り返し、四苦八苦で危機に対応しているんだろう。 

            

      

 チョイっと昔、ブルース・ウィルスの『ダイハード4.0』では、社会インフラの大基盤たる交通システムやら電力供給システムに侵入して勝手放題にメチャし、莫大な金銭を巻き上げようとする悪辣なグループが出てきて、その主犯が元国防省のシステム設計者だという、笑うに笑えない状況を描いてたけども……、そんな映画的な事件がごく身近で起きているようで、ホント、ナンギな世の中になっちまったですねえ。

 むろん映画では、ブルース演じるマクレーン刑事が悪漢をコテンパンにやっつけるけども、現実は、泣きっ面に蜂のテンデワヤに終始しているのではなかろうか。

 コンピュータとそのシステムは明るくて健全な生活の基礎基盤であるハズが、屋台骨を揺すぶられているワケで、ゆめタウンのスタッフ一同の歯ぎしりと口惜しさに大いに同情する次第。

 

 歯ぎしりで思いだしたが、最近、やたらに眼につく岸田某の顔……。

 いずれのメディア写真でも、口元にチカラ入れて食いしばったような顔が登場し、この造った顔がとても滑稽で、すこぶる可笑しい。

 

 何ぞヤッてます、決意してます……、という次第の彼なりの表現なんだろうけど、どれほど駄目な三文役者でも、ここまで造った顔は見せまい。

 不自然の極致というか、能力の低さを顔で隠そうとしている稚拙が浮き出て、逆に哀れ。

 

 という次第の流れじゃないけど、つげ義春の『無能の人』を久しぶりに眺める。

 河原で、河原で拾った石を売る主人公。

 当然に石は1つも売れないワケで、バカにされる。

 主人公には妻子もあり、妻はパートで働き、そこそこ生活してもいるワケで、拾った石を売る必然は薄い。

 が、そうであっても、小屋とも云えない“店”の軒下でジッとうずくまっているその彼の姿に……、その心の内に……、入っていきたいと読み返すたびに思う。

 彼はけっして岸田某めいた造り顔で繕ったり出来ない自身のカタチに怯え、結果、寂寥をも羞恥をも勝手に背負ってる。

 社会という集団での営みの中で、彼はいっそ「無用のヒト」というポジションに自身を置いてしまっている。

 が、その要領の悪さを悪さと言い切れない。むしろ読みつつ、その不器用に共振してしまう。

 河原にいる彼に魅力を感じるのは、多感ゆえの、詩人過ぎるヒト、という一点が灯っているあたりか……。 

 主人公は悲哀を存分に判っていつつ無能レベルの場に身をおいて途方にくれている。

 そこに疼かさせられる。

         

 なので、

「ふ~っ」

 溜息ついて……、ノ〜ナシにも色々なカタチがあるんだなぁ、と感慨するんだった。

 無能だの無用というレッテル貼りはいけないのかも知れないけど、我が事を含め、いやいや、ヒトゴトでなく己のが身のコトをば上流において、いささかの明暗の点滅をば意識しつつ、もう1回読み返すべきかな、「無能の人」。

 読むたびに、ヤヤ疲れるんだけども……、惹かれ続けてやまないんだから仕方ない。

(C)つげ義春 日本文芸社