深夜のインベーダー

朝がまだ朝になりかけていない午前4時前に車で近場のコンビニに出向く。
雨がチョボチョボ降っていて、あんまり手入れをしていない車ゆえ、ウインドウに薄く油膜がついていて、ワイパーを動かすと景観がやや歪んでみえる。
コンビニで糖質ゼロな発泡酒を求め、車で帰りかける。
後方車も対向車もない。
束の間、今のコンビニの存在を忘れ、地球にただ一人、ボクしかいない… みたいな感触をあえて思い浮かべてみる。
前方ではキッチリと信号機は動作しているし、道路の左や右を過ぎていく光景には幾つもの電灯の光があるけど、あえて… そう思い浮かべる。
その昔、20代の頃にはこんな魔がさすような時間に車を運転していると、どっか、遠くへ… みたいな願望とも発作とも判らない跳梁めいたものが跋扈して、家路に向かっていたコースを逸脱させて、ワケもなく1時間くらいアチャラにコチャラにと車を駆けさせたりしたコトもあるんだけど、もうそんな年齢ではないようで、そういう蛮勇が兆してこない。
「枯れかけているなぁ」
と、苦笑するしかない。
それでも、方々に明かりは見えても人の気配は皆目ないから、地球にボクしかいないとは思わないけど、こういう時になんぞ、不思議に遭遇したいもんよな〜と密かに思ったりはする。
その昔、「インベーダー」というテレビ番組があって、それは毎回、
『遠く、暗い宇宙から地球にやってくる者。それを私たちはインベーダーと呼ぼう』
という感じな、なかなかにカッチョいいナレーションではじまるのだったけど、内容はワンパターン。ハッとしてグッな感じがなくって、それゆえに大きくはヒットもしなかったと思うんだけども、けっこう恐い感触のある番組で、ふっと、そのワンパターンながら印象の濃い番組を思い出す。
主人公は、こんな夜に車を走らせていて、彼らインベーターと遭遇しちゃうのだ。
円盤と遭遇し、その搭乗員らの生態を見てしまうワケだ。
そんなコトを思い浮かせつつ、赤信号なので車を停車させる。
誰もいない交差点。
どこを見てもマチガイなく安全。
前方も後方も左右も、見渡す限り数キロ先にも動くものの気配がない。
だから、信号待ちしている図はずいぶんとバカっぽい。
フランス人なら、このルールを無視して車を動かすだろうトコロだけども、ボクはフランスのエスプリがないんで、青になるのを待っている。
待っていても、当然にインベーダーの円盤は降りて来ないし、ましてや、直進すべきその信号を、右か左へと気ままに駆けてみるかとも思わない。
A地点からB地点に目的を達成して動くだけのコト。
「ぁあ、つまらんな〜」
と、思わず呟く。
自身の中の自身の退屈に気づかされて、いささかの哀しみをおぼえ、
「いでよ、円盤!」
と、油膜で薄く歪んだウインドウ越しに雨の夜空を見上げる。
ひさしぶりに、その「インベーダー」を観たくなった。