月のうさぎ

ボクが子供の頃は夜になると空は星でいっぱいで、恐いようだった。
地上には今のようにコンビニやネオンや、ましてや街路燈もほとんどなかったので、夜はとても暗くて、必然として星はよく見えた。
夜は深閑としていて恐く、だから、満月の夜はちょっと有り難かった・・。
今の子供はたぶん、月にうさぎを連想するものは少数だろうけど、ボクが子供の頃は、月を見て連想するのはうさぎの餅つきだった。
1969年の夏に、人が月に立った日の朝日新聞をボクは今も持っている。
正しくは、月に立った翌日の新聞だけど、未だ今日に至るまで、あれだけデッカイ見出しの新聞にはお目にかかれない。
人が月に降り立った日、ボクは高校にいた。某運動部に属していて早朝から練習をやってたワケだけど、いざ人が降り立つぞというその前に職員室に呼ばれ、先生や部員らと職員室の小さなテレビの前で待ちかねた。テレビに映る映像は荒くて不鮮明だったけれど、その粒子のざらつきの中で動いている何かが、何であるかは概ねは判りもして、ドキドキと昂奮した。
ボクははじめて月のうさぎを見たワケだ。
その昂奮は、某先生が、
「オルドリンは・・ まだ降りどりん」
とやらかしたので、いささかに興醒めはしたけれど、30有余年前のその時の記録は、その言葉と共にボクの中で、永遠のものになった。