飛騨高山から福井へ駆ける

 

 Kosakaちゃん、Nakatsukasa君、わたしと、早朝から車を駆けらせ、岐阜県に向かう。

 瀟洒な山岳都市たる高山に泊まり、次の日は福井県に足進めるというザックリ大まかスケジュール。

 わたしは運転しない。

 車に関しては、どれほど運転しようがさほどに疲れないヒトと、3時間程度でくたびれちゃうヒトの、2種があるような気がする。

 当方は後者。長く運転すると眼がかすみ、視界がボワ~ンとしちゃうのでヨロシクないのだ。

 同行2人幸いにして前者。よって当方、後部席にゆったり座して流れゆく高速道路の景観眺めたり、ウトウトしたり、お気軽だ。

 およそ6時間後、飛騨の里の直前で、ワサビすって蕎麦すすり、意気揚々と飛騨の里に入ったものの、数年前までは素通りできた道が、地元住民以外の車の乗り入れを禁じている。

 ガードマンさんに誘導されるままに河川敷の駐車場に直行させられ、

「はい千円」

 ……えっ? 

 1本道のどん詰まり、なんだかゴキブリが誘導されるような、“駐車ホイホイ”っぽい感拭えず。

 山道駆けてせっかく来て、合掌造り見ずに引き返すのもナンだから、お支払いはしましたが~ぁ、そっからの高低差ある徒歩が、どえらくシンドイのでありまして、とてものこと、見て廻れず。

 駐車場は谷間の河川敷で下の方にあり、見学すべき集落は谷間の上の山中なので、集落に入る以前に足ヘトヘト。

                  photo : hirokazu.Kosaka

 しばらくは歩いたけど、ヘたれ気味で谷間の駐車場まで戻れそうでない当方の足腰弱体をみて、Kosakaちゃんが、

「待っててチョ。車、下から取ってくるから」

 いたわってくれて大助かりぃ~。

 シルバーシート、という単語がそよそよソヨギッたねぇ。

 

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 飛騨の里から1時間ほど駆け、高山市中心部へ。

 北アルプスを眺望できる丘に立つ。

 駐車は無料。

 乗鞍岳、焼岳、穂高笠ヶ岳槍ヶ岳などの高峰名峰の雄大を遠方に味わう。

 借景としての雪山……。好い好い。

 

 丘から移動し、高山の街中を歩く。

 雨天たればググ~ッと冷えるらしいが、幸いかな日中は晴れ。

 でも日陰に入ると、なるほど岡山方面とは違う低い基礎温度が感じられ、旅情の何たるかをおぼえる。

 新旧いずれの家屋にも雪害防止柵があって、こういう光景は岡山では見られない。

 町並みのチャ~ミングさに、眼が悦ぶ。

 古い家屋に現在の創意工夫が溶け入って、佇まいとしての襟を正してる。

 今、岡山市街中心部、とりわけ岡山駅から桃太郎大通りにかけて、再開発という名の建設工事がドンドン進行中で、アレも失せ、コレも消えで……、マンション林立の、つまらない街に成り下がりつつある。

 城下公会堂というカフェ&ライブハウスの入ったビルも、この秋には取り壊されてしまう。県営でも市営でもない私営施設ながら、淡い色合いの文化的香りを発散させていたそんな空間までが、失せてしまう……

 高山市街と岡山市街を単純に比較するワケではないけれど、「ちゃんと残る街」がどちらであるかは自明。

 

 そういう次第を踏まえたワケではないけど、飛騨高山レトロミュージアムに行き、昭和のアレコレを眺めて眼をほそめる。

 こういう施設はどこにでもあり、岡山の湯郷にもコレクションが尋常でない私設博物館があるし、柵原鉱山資料館の地階には昭和の息吹きを観られる施設があるけども、ここは規模大きく、かつ昭和のゴッタ煮的なアレコレが味わえ、なにより展示物に触れられるのがイイ。

 映画『ALWAYS 三丁目の夕日』で使われたミゼットに、堤真一ではなく、大村崑イメージで乗ってみる私……。

 

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 飛騨高山といえばヒダギュ~じゃないか。

 ここに来た以上は素通りはなるまい……

 超絶人気の飛騨牛にぎり寿司「金乃こって牛」は長蛇の列。

 しかし、辻一つ向こうにある2号店は誰も並ばず、というか、その存在がまだ知れていないようで、これはラッキ~。

 店を独占のカタチで飛騨牛三種三巻セットを頬ばる。

 ビールは隣りの店で買ったのを持ち込みだが、双方の店が連携していて、その辺りの具合も心地良し。

 皿ではなく、焼きせんべいに寿司がのっかり、せんべいも喰ってゴミいっさいなしの配慮もチャーミング。 

 素晴らしく美味かった。牛肉が口の中で溶けていく初めての驚きが、旨味に輪をかけた。

 

 高山といえば高山ラーメンも念頭に浮く。

 ここに来た以上は、これもたべなきゃ~なるまい。

 が、しかし、高山の町は閉店時間早いのだった。

 夕刻4時には暖簾が降ろされる店が多く、目当てにした店も例外でなかった。

 不夜城めいた町の貪婪ではなく、メリハリがキチリとした町として思えば、その潔さは逆に、とてもイイ。

 という次第で、しゃ~ない、高山ラーメンは自分用土産に乾麺買うのみ。

 夜に食べた朴葉味噌焼きが美味かったので、翌朝、それも買う。

  朴葉(ほうば)の葉の上に味噌がのり、その上に刻んだキャベツがのって網焼きされただけの素朴ながら、味噌の辛みと朴葉の風味がからみあい、日本酒にあう〜。

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 翌日。

 早朝7時前にホテルを出て、宮川朝市を散策。

            ヒダネギ…… お子さんが束を作ってた

 赤カブラの漬物買ったり、赤味噌を買ったりで、いい気分に浸るが雲模様妖しく、やや早めに福井県に向けて移動開始。

 しかし、トンネルだらけの東海北陸道を駆ける内に、雨あめアメ~。

 山間の九頭竜湖の脇を駆けて福井に入った頃は、昨日が嘘のような濡れっぷり。

 

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 福井県は恐竜王国……。

 いつからそうなったのか知らんけど、とにかくイチ押しで恐竜だ。

 道の駅「九頭竜」(JR越美北線の終点・九頭竜湖駅と合体の施設)にも恐竜が、いる。

            線路はこの駅で終点。先はもうない

                  アンモナイトの椅子がいかす♥

 駅前の恐竜は15分置きに動くというから待ってたら、雨の中、20分くらい動き続けた……。



 次に立ち寄った道の駅は、その名も「恐竜渓谷かつやま」というくらいで、一押し二押しの恐竜大会。

     

           売ってる品々、みな恐竜じるし……

 

 なワケだから、新幹線も遂に入線の、もっともメインとなる福井駅前ともなれば、恐竜オリンピア

 駅ビル壁面も恐竜一色のビッグ迫力。単色っぽいカラーリングがすこぶるイイ。

           オブジェはリアル・サイズゆえでっかい……

  

 それぞれの恐竜は予想した以上に柔軟な動きが仕掛けられ、

「ほほっ~」

 気持ちが15歳ほど若くなったような新鮮すらおぼえさせられた。

 ……観光客に強く訴える施設少なき岡山市は、そうさなぁ、福井駅前を真似て、全長20mくらいの動く桃太郎像でも設置するのがイイんじゃない?

 30分に1回くらい、憤怒の形相に変じ、眼が真っ赤ランランに光って、

「おどりゃ~、ぶち殺したろかっ」

 周辺800mまで轟く音声など仕掛けて、初めて岡山駅に降りた他県観光客をビビらせ、旧来の桃太郎イメージをもぶっ壊して、強くインパクトを与えるのは、よく……、ないか。

    恐竜以外ではこのポスターが眼をひいた。何のキャラクターかしら?

 

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 ま~、福井へ来た以上は……東尋坊であろう。

 類例少なき奇景であろうし、それゆえ絶景でもあって、どういう次第か「自殺の名所」という不名誉な事実もくっついているけど、なるほどなるほど、近くば寄って眼下を眺め下ろすと、眼と頭の中間で「壮観」の一語がピカピカ点灯する。

 くわえて、悪天だ。

 雨で岩場は滑りやすく、さらに風がとんでもない。

 観光地化される以前は、東尋坊は凄まじい荒涼とした景観だったろうと想像でき、やおら感慨深い。

 と、そう思うと、ここに来るのは嵐の日こそがイチバンに、

 Insanely Great

 を味わえるのかもと愚考した。

 日本語で云えば、『異様に素晴らしい』だ。

 ま~もっとも、前日我々が高山をウロウロしていた頃にも、一人が飛び込んで亡くなったというニュースもあって、うむむむ……。浮かれてばかりもいられない。

 しかも遊覧船から身を投じたというから、うなだれる。



 雨で客足少ない備長和牛(若狭牛)の店で串焼きを求め、立ち食い後、東尋坊すぐすばの雄島に歩いて渡る。


 強風でウインドブレーカーにくっついた水滴が吹き飛んでく……。

 雨足も強まってきたので、近場の、東尋坊からチョイ離れた、人気ランキングにも載らない(と思われる)店で刺身盛り合わせの定食をお願いし、ハマチのぶ厚さとイタドリの漬物に感心しつつ美味しくいただき、うろつき終了。

 帰路につく。

 好天と悪天の両極での他地域を味わえ、印象深い一泊二日だった。