6月の城下公会堂 ~Tetsuya Ota Trio Live~

 

 土曜の夜。雨。

 城下公会堂でTetsuya Ota Trioのライブ。

 ここ数年はドア・ボーイとして参加しておらず、前回3月のライブも他イベントと重なって、リハーサル中の3人にチラリ挨拶しただけゆえ、こたびは観客として聴く。久しぶりの新鮮感高し。

 馴染んだ曲の数々に馴染んだトーク

 すべて、太田のオリジナル曲。

 ベースの岡田圭史、ドラムの尾添JON、そして太田。コンビネーション抜群の3人の演奏に、時間が溶けた。

 噛み合っているようで、噛み合っていなく、けどもやはりチャンと噛み合ってるのか? しかし、でもってその話題、どうやって切り上げて曲に移るのか? などとヘンテコ気分を味わえる3人のおしゃべりを当方はかつて「グダグダ・トーク」と名付けたよう思うが、回を増すごと研磨され、一種の「即興の散文的ほぐし芸域」に昇進しているようで、それもまた時間を溶かす効果に加担していた。

 

  今回は事前に彼の曲「Black Moon」をリクエストしており、ありがたや、ひさびさナマで聴けた。

 好い曲だ。



 上の映像は2010年8月、後楽園・幻想庭園での「Black Moon」。この夜の後楽園入場者は6千人と記録されている。来園者全員が耳を傾けたワケはないにしろ、ステージを取り巻いて芝生の上に座った多数の方々には、本物の月を背景にして強く印象されたメロディだったろう思う。

 名園での名演といえばベタな表現だけども、そういうベタが大袈裟でない名曲と当方は想ってる。何千人が聴こうが、実はそこはどうでもよく、個々人の中に、自分という城壁の中にこの曲がどう浸透し定着したか、が大事。

 

 城下公会堂は夏過ぎに閉館し、取り壊され、再開発の名のもとで新たなマンション・ビルになる。

 歓迎、しない。

 多層の想いが詰まった空間が失せてしまうのが口惜しい。新たなビルが数年後に生まれたら(3年後)、城下公会堂はテナント店舗として復活するであろうけど、親しみ馴染んだカタチは戻らない。

 城下公会堂を含むこのチャーミングな一角が“再開発”され消える。エクセルホテル9Fの一室から撮影

 

かくとだに  えやは伊吹の さしも草 さしも知らじな 燃ゆる想ひを

 

 上記は、千年前に編まれた『後拾遺和歌集』に載る恋歌で、干されたヨモギの葉であるモグサの燃焼と、好んだヒトへの恋慕の熱い想いをかけあわせたものだけど、似通う気分が湧き上がる。

 ながく運営維持されたライブハウスには音楽空間としての独自な趣きが蓄積し、それが他にない味覚として発酵かつ発光燃焼する場所だと感じて久しく、だから喪失感が大きい。

 太田徹哉トリオは8月にもう一度、城下公会堂でライブ予定だ。「さよなら城下公会堂」というカタチというか、1つのけじめとなるライブを行うそうだ。

 8月もスタッフとしてではなく、観客として座ろう。

 で終演後には、今回もそうだったけど、共に見聞した良き仲間と、観客としての、「ありがとう城下公会堂」うちあげを近くのプチパインでやっちゃお~ぅ……、とも想ったりしている。