デンゼルの新作

先日、MOVIX倉敷でデンゼル・ワシントンの新作を観た。
今年になって初の映画館行き。
監督はトニー・スコット
トニーとデンゼルによるコンビ映画ではたいがいがハッピーエンドで終わる。
まして今回のは、暴走するディーゼル機関車をベテランの機関士たるデンゼルが食い止めるという、いわば、それだけの映画なので… はたして、退屈せずに最後まで観ていられるかしら… と逆な不安をおぼえもしたけれど、どっこい、さすがにトニー・スコット

映画作りの手本に、映画の一つの教材になるくらいな巧みを観せてくれた。
推理力を試されるような映画でなく、ひねりにひねりを加えた映画でもなく、朱色な大型の機関車に引かれた貨車の数珠つなぎが暴走するというだけ。
それをデンゼルと新人の車掌とが食い止めるというだけ。
が、それをB級ではなく、Aクラスの映画に仕立てているから、眼を揺さぶられる。
薄い話を、濃厚なバターでゆっくり煮込んで旨味(うまみ)を醸し、淡いが惹きつけられる匂いを立てさせている。
このワザというか技量に、ただただもう感心させられるという案配。
巻頭の音作りにあざとさをおぼえ、最初はそのサウンドが耳につくけれども、機関車のパワーを暗示させる音でもあるワケだから、次第にそれは馴染んでくる。
機関車が駆けるのは田園地帯ではなく、薄汚れた感触の工場地帯なのだけども、それすらも”絵”にしている技量に、感心させられる。
「上手に作るな〜」
と、べったりとした感嘆詞が浮いてくる。
内容が内容ゆえ深く刺さりはしないし、館を出て寒風に晒された途端に、もう映画の細部は僕の中から消えかけているとも感じるけれど、レベル高き創作の現場を目の当たりにさせられた感触だけは確かな手応えとして、残る。
話をどう描いて、どうまとめていくか… どう見せていくか… 映画を学ぼうとする若い人にお奨めの一本という事になりそうだ。
いや… いっそ、むしろ、今、映像作りの現場にいる方々にお勧めした方がよいかもだ。とりわけテレビのドラマ作りな方々に。
昨年の龍馬を描いた大河ドラマにしろ、今年この前からはじまったヤツにしろ… ひどいもんだった。ベタな感情をベタベタなままに描写しているから過剰で大げさで結果として味はアクにまみれて、本筋も本質もが… ささくれだっていた。いびつな鏡で景色を眺めさせられているような不快があった。
そこいらの描写法をこの「アンストッパブル」で学ぶのもよい。