土佐の宇宙酒

カルスト台地といえば山口の秋吉台が想起されるものだけれど、高知にも実はある。
標高では高知のカルストの方がはるかに高くて、下界を見下ろすその光景は、異形めいて、なかなか良い。
風力発電の大型の白い羽根がゆっくりと廻っている下を、放牧の牛達がゆったりとした表情で立っていたり座っていたりする。
子牛もいる。やはり立っていたり座っていたりする。青い空を眺めていたりする。
眺望のよい高台に国民宿舎があって、その建物の外と中に一本、線が引いてある。
愛媛県高知県の境なのだそうだ。
家屋が県境をまたがって作られている。
国民宿舎といってもなかなか豪奢で、お正月には泊まり客でいっぱいになるそうだ。冬場は雪で覆われるらしく、映画「シャイニング」のような、雪上のホテルといったアンバイになる感触である。
売店高知県側にある。
その売店で見つけた。
宇宙に連れて出られた酵母を元に作ったのだそうだ。
2005年の10月にソビエトソユーズで3名の飛行士と共に運ばれた酵母は、無重力の中で8日間を過ごし、帰還後に高知に戻り、こうして酒となった・・。
酵母はしゃべらないから、無重力体験が面白かったか不愉快だったかは判らんが、宇宙に出たコトで名がついた。
宇宙酵母CEL-19/KA-1というのだ。
この存在をまったく知らなかったので帰岡後にしらべたら、その酵母は土佐の複数の酒造蔵元に配られて、3年経ったいまでは10数社の蔵元が"土佐宇宙酒"を、限定品として販売しているようである。
http://www.tsukasabotan.co.jp/tukasa/ucyuusyu/ucyuusyu.htm
おもしろいコトを考えたもんだな〜、とカルスト台地の風を心地好く受けながらボクの気分は良くなった。
「宇宙酒のんで宇宙酔い〜〜なのだ〜」
と、定番おきまりのセリフを叫んだりしながら、カルスト台地の放牧牛のウンチを踏んづけないよう足元をよろつかせるのだった。
高知の市内なんぞで、この宇宙酒を手にしたなら感じるものがやや少なく、
「あら、こんなものが」
とニンマリ笑う程度であったろうが、天空のカルスト台地ってな感じの眺望のよい場所で見つけたもんだから、なにやら嬉しさの含まれ方が違うのだ。
名が愚直な程に真っすぐなのもいいじゃないか。
『宇宙酒』なのである。
この"宇宙酒"の頭に、それぞれのブランド名が乗っかるのだ。
いわく、
「司牡丹 土佐宇宙酒
酔鯨 土佐宇宙酒
「菊水 土佐宇宙酒
「文佳人 土佐宇宙酒
「土佐鶴 土佐宇宙酒
「桂月 土佐宇宙酒
「豊の海 土佐宇宙酒
などなどなどなのだ。
写真は、司牡丹の宇宙酒だ。
いずれも限定品のようであるから、宇宙酔いを愉しむ期間は短いと解釈せねばなるまい。
そんな次第ゆえ、次に高知界隈に旅する我が知人には、ここに記してお願いとする。
「高知土産には宇宙酒、買ってきてね」
もちろん、ネットでも買えますがね。こういうのは行って買ったというのが嬉しいのだ。
宇宙に行った酵母が入った酒を高知に行って買ってくれば、その"わざわざに"な感触が美味さに加味されるからイイのだ。

ちなみに、酵母の宇宙行きはとっても高額なものとなったようで、顛末の一部がここに記されていたりする。
http://www.kochinews.co.jp/0603/060323headline01.htm
販売に至るまでにはロシアとの間でいささか紛糾したようである。
水面の下で膨大なお金が、泣く泣くにロシアに運ばれたと思わねばならない。
けれど、こういう酒は歓迎だ。
勢いや良し。気概良し。
土佐ゆえにか、と思う。