ちっちゃい花吹雪


昨年の春過ぎに小庭にゆすらうめの苗木を買ってきて植えた。
植えるや、まるで「ジャックと豆の木」の豆木のようによく育ち、枝が伸び、葉が茂った。
日当たりがよろしかったか、スックスックと大きくなって、秋口には実もつけた。
でも、本来ははんなりと甘いはずのものだけど、酸味がとても強い実になっちまったので、ちょっとガッカリだった。
それにしても、よくおごり、買って来た時には30cmほどの小さな棒切れみたいだったのに、実がなった頃には、ペッタンコな豆モチがプワ〜と何倍にも膨れたように、外周が2mをこえるような大きさになっていた。
その大きいのが、冬になると葉がすべて落ちて、ジャコメッティの針金細工めいた彫刻のようであり、オバケ屋敷のくち果てた骨だけの木みたいな、チ〜ッとも好まれる格好でなくなってしまった。
そうでなくとも冬は寒いから、その寒さを増量させるような痩せた姿に、
「これは植えるんじゃなかったな〜」
と、ついこの前、3月の中頃までそう思ってた。
それが、1週間ほど前のお天気の良い、ちょっと暖かみをおぼえる日に、ふいに芽生えた。
紅みをおびたツボミが随所にあらわれたかと思うや、翌々日には蕾から花が開きだし、次の次の日にはもう満開となった。
可憐味のある白い花たちがいっせいに開いて、ジャコメッティ針金の寒々しさを覆い隠した。
そして昨日には、もうその花が散りかけている。
昨日の岡山市はとっても良い天気で雲1つなく、ボクは午前中から午後にかけて、半年ぶりに国立医療センターに出向いてた。
某疾患がための定期検診だ。たっぷり血をぬかれ、オシッコをとられ、表がえされ裏がえさせられ、アチャラコチャラをまさぐられた。
国立にはおっ友達の医師が2人いる。2人とも同じBARで酒も飲む。ゆえに彼と彼女、それぞれの診察室を訪ね、
「よ〜っ」
と、赤いワインでもお届けしようかと思うたけど、思っただけで、おとなしく、患者らしく、うなだれ気味に、しおれ気味に、待合のシートに座って検査結果と診察を待った…。
で、それが済んで、帰宅して小庭のゆすらうめを見ると、出かけた時よりさらに花々が華々しい。
腕をせいいっぱい伸ばし、花弁めらがノビノビしてるような感触だ。
ちょいと枝を揺すってやると、桜が散るのと同様なカタチでハラハラヒラヒラ…、落下する。
ゆるい風に舞って小規模な花吹雪となる。
でもって、散る花々の下には薄い緑色の新葉が吹き出している。
「なんちゅう早さやねん!」
とボクは眼をはった。
本来、こんなに成長の早いものなのだろうか?
この分だと来週にはもう青々とした姿になっているような気がする。
なもんで… 車の後部座席に寝かしてた赤いワインを取り出し栓を抜いた。
車内にあったから、妙にぬくい…。
氷をいれた。さくらうめを眺めつつ、プチな1人花見だ。