桂そうば岡山落語会で笑う

今年最初にして最後のナマ落語会。
日常、iTunesで落語に接し、たとえば今イチバンのお気に入りは5代目の古今亭志ん生だったりするけど、ライブは久しぶり。
桂そうば
桂紅雀
2人の噺。
そうばは、5年ばかし前にもこの岡山で聴いたな。
今年35歳だという。
どうもボクは、落語は年齢高きな噺家を好むところがあって、だから、30代半ばじゃまだまだダヨ〜、という1種の偏見でもって接してしまうことが多い。
だけども敬愛する5代目志ん生にしろ3代目桂三木助にしろ、彼らとて35歳の高座というのは当然にあったんだから… いきおい若手じゃダメだよ〜、と決めてかかるのはよろしくない。
若さというカタチがどう古典的題材を解くかに、興味をシフトさせて聴きに出向いたワケだ。

さてと会場の「プチパイン」。
どういう次第か、最前列。それも高座の真ん前という席。
たしかボクは立ち見でいいからと告げてたはずだったんだけど、最前列のストライクゾーンと最後列のファールボール席とでは… やはり迫力がちゃいますわな。
眼と鼻の先での噺ゆえ、重力がちゃいますがな、重力が。
引き込まれるべくなお席でござい。


それで中盤の、もはやベテランの領域にいる紅雀の演目が『かぜうどん』だよ。
若さがどうのこ〜のは… もう忘れてら。
枝雀の名演で高名な『かぜうどん』を、その最後の弟子であった紅雀がどう演じるか… 否応にも昂ぶらさせられた。
素うどん、関西でいうところのかけうどんをすすりあげる、いわゆる形態模写のシーンでは、ひょっとして枝雀のよりイイぞと、思ったくらいに芸細やかで、なんせ最前列ゆえ、熱演に伴って紅雀の額に汗が浮き上がってくるのを、"生態学的"にも眺められて、とにかく感心した。
1枚の絵は10m離れても、50cmの至近でも眺められるけど、絵が発する情報量の摂取という意味では、やはりその至近の方が浴びる量が多いのじゃなかろうか。
熱演をまのあたりにして、それでたちまち、美味いうどんのことでアタマがいっぱいになってしまった。


そうばの「子ほめ」、紅雀の「かぜうどん」、そうばの「高津の富」と3つの噺を堪能して終演。
裏方を務めた、割烹着姿で当然のごとくに髪をアップのY子さんとEさんの艶姿をチラリ眺めつつ、お客も多いので挨拶もままならないまま、やむなく外に出ると、北風ピ〜プ〜底冷えだ…。
というワケで、このシチュエーションは「かぜうどん」同様な、
「寒っぶぅ〜〜〜」
なわけで、もはや行くべき場所は1カ所しかないじゃ〜ないか。
落語のように、先方を呼べるわけはないので、こちらから行く。
演目マネて、かけうどんだ〜! の勢いで柳川交差点近場の『讃岐の男うどん』へGOGOGOだ。


けど着座すや、たちまち欲望に負け… ビールにおでん。
うどんお預け。
まずはそれで喉を潤し、舌を動かす。
後楽園の真ん前にあった今はない「鶴見食堂」のそれみたいに、なんやしら、暗黒色が浸みに浸み込んだ風情のおでんに同行者と密やかに笑う。
ちょいと間を置いて、
「よっしゃ、うどんやっ! す〜うどん、いてまおか〜!」
上方っぽい発声になっていよいよ本番。うどんとの遭遇。
かる〜く… 竹輪の天ぷらに、ゴボウの天ぷらに、煮込みの牛肉のっけて、あ、ついでに半煮えのタマゴおとしてもらって、えっと、あ、そ〜、温玉っていうのね… それでじゃ〜、ちょっとネギ多め…。
え? カマボコ2枚いれる? 入れて入れて…。
どこがかる〜いのやら素うどんやら判らんうどんを、チュルチュルジュジュジュジュ〜〜… 音たてて頂戴し、暖をとりましたとさ。