芝浜

最近続けてトンデモなく細部がリアルな夢を見て、ちょっと驚いたり喜んだり… した。
過去をまさぐっても、類例なし。
予期せず4K画質を見たような感じ。
1つの夢には、茶器(酒盃かも)が出てきて、何か4つ足の猛獣像なんだけど、ややディフォルメが過ぎてトラかライオンだかは判らない。ただ、強い意志が感じられる。
足の1つをひっぱると、外れて舟形の器になる。
猛獣像、片足(舟形の茶器)の細部、いずれもスゴイの。
木目くっきり、釉薬の濃淡もくっきり。
1本、足がとれた像は床に置くとちょうど足部分が隠れ、置物としての不都合なし。
しかもストーリーもしっかりして、グダグダなし。
しっかりどころか、日常のボクにはない発想と物品の登場でもあって、ひたすら、
「ワォ!」
なのだった。


だから2夜連続、
「何っ、今の…」
目覚めるや、感嘆して懸命に追想してみるのだった。
ま〜、思い出そうとするや原型は崩れ出し、幾つかの部分のみ残るというアンバイはいつもながらだけど。


落語に「芝浜」というのがあるね。
腕は良いけど呑んだくれてる魚屋がワイフにせかされ、芝の魚市に早朝出向くものの、海辺でサイフを拾い、それが想定外の大金だったから大喜び。
すぐに飛んで帰り、ワイフに命じて酒をあつらえ天麩羅を注文させるなどして、クマさんハッツアン呼んで家でドンチャン騒ぎ。
けども眼が醒めると、ワイフから、
「サイフ拾ったぁ? 何ねぼけてんだよ、早く魚市に行っとくれよ〜」
クマさん達を呼んで騒いだ以外は、いっさい夢だったと知らされる。
それでガックリ! 酒のせいだと反省し、以後数年、一滴も呑まずに仕事して、やがて何人かの包丁人を雇う魚屋になるんだけど、とある年末にワイフが告白する。
「あれは夢じゃ〜なかったんだよ」
「アンタはホントに芝の浜でサイフを拾ったんだよ」
「でも、このままじゃいけないと思い、アンタが寝入ったあと、一考し、嘘をついたんだよ…」
ってなドンデン返しで、笑いとペーソスが極上に煮えるという一席。


3代目桂三木助と談志のそれが名演と云われるけど、ボクは三木助をとる。
江戸の下町風味風情を伝える口述家としての彼は、その点は志ん生よりも上位に置いていいと思って久しい。独特の品があって、これはたぶん造られたものでなく天性のものなんだろうけど、それと題材が巧妙にマッチする。



談志は、深く考え過ぎて過剰になってるよう思われ、感心しない。彼が嫌っていたベッタリした人間関係に逆に囚われてしまった噺になってるようだ… と思わずにいられない。
ま〜、それはどうでもいいんだ。
(この表現…、ま〜、ではじまる一言をボクは多様するけど、実は三木助の口癖をチョ〜ダイしたもの)



問題は2夜連続に見た夢、だ。
「ありゃ〜、何だったんだろう?」
まるで「芝浜」の主人公みたいな迷妄をおぼえる次第。
といって、酒断ちしなきゃイカンという内容じゃ〜ない。
ただもう眠ってるさなかのアタマの中、ど〜なってんの? に興が注がれるだけ。
眠りが浅いからそ〜なるのか…、それとも逆か…、めったとないコトだろうから、ここに留めておく。
どのような夢だったかは書かない。だって、他者にはオモシロクもカユクもないものだもんな。


近頃のボクは眠ることを愉しみの1つに、してるようなトコロもある。
夢で会いましょう…、と。
当然に一方じゃ、それって後退かも…、という気もしないではないんだけど。
ま〜、いい。
前進後進いずれも、とどまっちゃ〜いないんで。


※ 夢のない永劫の眠りの世界に旅立った、かつての仲間藤原憲一氏に哀悼の意を献げつつ。
ニューヨークで過ごした時代の彼の幾つかのエピソードをボクは直に聞いてるけど… 遠い夢のような傑作が揃ってた。
うち、1つだけをここに紹介し、彼を偲ぶ。



日本にジャズミュージシャンを招聘する音楽プロモーターとしての駆けだしの頃… 夜の5番街だかの裏路地でナイフで脅された。
「ホールドアップ」
金品を要求された。
藤原は困り、両の腕をバンザイしたまま、同情の眼で先方を見つつ英語をこぼした。
「すまんな〜。ボカぁ、たぶん…、おまえさんより貧乏ぞッ」