アポロのエンジン

アポロ支援船(SM)のエンジンは、以外や模型化されたコトがない。
ノズル部分はどんな模型にもあるけど、エンジンそのものは、ない。
実際の支援船の重さの75%はこのエンジンとその燃料だったそうだ。
このエンジンはSPS(Service Propulsion Subsystem)と呼ばれ、3つの重要な役割を担ってた。
月の軌道に入るための減速。
月軌道からの脱出。
月と地球の中間点での軌道修正。
簡単にいえば3回使われるワケだ。
出力調整は出来ない。噴射の秒数でもってその調整を行なうという方式で、噴射角度を変えるためにエンジンそのものが可動構造(約10度)になっていた。
というワケで、そのエンジン部分をペーパーでもって作ってみた。
たぶん、世界初の模型化というコトになろう。
グニャリ曲がったパイピングは紙ではあまりに面倒なので、手近なトコロに転がってたタミヤのパテを練って簡単に工作した(苦笑)。
色付けとしてグリーンを選択した。本物のそれはグレーっぽい色だけど、模型化にあたっては、昔のテレビの科学番組や科学雑誌などに登場する"ちょっと判りやすい色区別"で構成された図解めいた感じを試みたつもりだったのだけど、あまり成功したとはいえない。

でも、ま…  SPSエンジンが支援船の体内でどれくらいの場所を占有するか、くらいの見当はこれでつく。
スミソニアン博物館風味の展示台も作成してみた。
ホンマのスミソニアンなら、これをどう展示するだろうか? と思うとワクワクする。
男子は概ねにおいて、”エンジン”という存在を好むようなトコロがある。機械が好きというストレートな感じでなくとも、その”存在”をどこか密かに崇めるような感触を持っている。
そんな風にボクは思っているから、アポロが絶頂期であった1969年から70年代のはじめにかけて、SPSエンジンを再現した模型が市販されていてもよかろうに… と考えるのだが不思議にそれはない。
資料がなかったのかもしれない。
高名な、あのレベルのでっかい1/96のアポロサターンのプラモデルは1969年が初販で、82年に一度、94年に一度、再販もされているが、実のトコロ、そのディティールはかなりアヤマチが多い。
当時、やはり、資料が潤沢になかったからだろうと推測出来る。
が、それはどうあれ、69年当時の少年モデラーの多くはこの高額なキットは憧れのマトだった。
とくに地方都市では、輸入モノゆえ、それを見るコトも出来なかったし、事実、かくいうボクも少年マガジンやサンデーの記事に噛りついたものの、ホンモノのそれを見たコトがなかった。
自ずとそれへの憧れは高まる。
ボクがそれをやっと買えたのは94年に再販された時だ。
25年ぶりに夢がかなったワケだ。
その25年の合間に耳も肥え、眼も肥え、しているワケだから無垢な少年のままにそのキットのフタを開けて炯々となる… というワケにはいかず、
「ハハ〜ン、このパーツが間違ってるパーツだな」
「ありゃ、ホンマや。たしかにコレはBlock-1だな。こんなんじゃ〜ないよ〜」
てな、ディティールに対するブーイングを口に出してしまったもんだ。
が、それでいて、やはり、夢の品であったモノが手元にあるという重みは大きい。
いまだにこのキットは、ゆえに、もったいなくて組めないのだ。

ディティールが間違っていようがこのレベルのキットからは特殊なオーラが出ているんだ。特別な存在というワケだ。
自分の羨望と満足と野望が凝縮されたキットゆえ、組み立てるには勇気と決意がいるのだ。
ワインではないのでキットは熟成はしないけど、こちら側の内圧が一定量に達するにはまだ時間を要するよう思われる。
『いずれ、これを作るのだ』の野望の火はたえたコトがない。でも、作ってしまえば、このキットとの"ふれあいめいた友好"もなくなるのだ。なくなりはしないだろうが、違う段階に持っていかれてしまうのだ…  などと、ブツクサいってる内に歳月が移ろっていく。
買って、もう13年が過ぎた。
話がそれたね。(*^o^*)
ともあれだ。
レベルのキットは作らず、いま、紙でアポロ模型を作ってる。
ボクの周辺の連中は全て、
「なんでペーパーモデルなの?」
訝しんでいる。
多くは、
「あれはダメ。イジイジする。クチュクチャっと丸めてポイッだ」
そう公言する。
「お手軽だし、再トライが幾らでも出来るんだぜ。設計するトコロに醍醐味の頂点が来るわけよ。プラモデルもガレージキットもいいけどペーパーもまたオモロイねんで〜」
抗弁するけど、とんと聞いてもらえない(大笑)。
ちなみに、写真でお判りの方もあろうが、姿勢制御ブースターはまだ作ってはいない。位置決めとパーツのプリントは出来ているのだけども、全部で4ヶ所、16ケもの小さな筒を紙で作るのは… とても面倒なのでまだ出来てない。
この辺りが、たしかにペーパーモデルの難点だといわざるをえん、ネ。