サンダーバードにキングスマン

モスラ』に継いで、『キングスマン/ファースト・エージェント』と『サンダーバードGOGO』をば、観る。

キングスマン』はメルパ岡山にて。

 

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 今月末をもって同館は岡山駅前から撤退……。

 ガッカリしないわけがない。どこにでも座れる自由席空間が最大の魅力、かつ、ここで何作もの映画を愉しんできただけに、片腕もがれちゃうような、

「ぃ、痛たたたた……」

 グッタリandブルーな気分にもなるんだった。

 まして遠い昔ながら、当時、「おふくろ」という店がグランド・メルパ〔今はない)のすぐ隣りにあって、メルパと同じく福武観光が経営し、ボクはそこで高校3年間の夏休みと冬休みと春休みはアルバイトしてた。もちろん調理のチョの字も出来ないけど、割烹着を着て来店の方々を迎え、徳利あっためて燗酒をだしてみたり、おでんを適度にと云われたら、コンニャクと糸ゴンニャクだけを選んで出したりしてた。

 オール・カウンター席の和式っぽい造りで、昼食・夕食にお酒……、けっこう繁華だったけど、なんせ映画館がやってる“食堂”だから、各館(当時は岡山グランド劇場と岡山東映の2館)の映写室に珈琲や昼食を運んだりもする。

 なので映写室のヒトとも親しくなって、ヤマモトのやつ、出前に出たまま帰ってこんぞ~、というようなコトがしょっちゅう起きてた……。要は映写室でスクリーンを眺めてたワケだんわ。東映作品は任侠モノが多くて興味なしで、もっぱらグランドね)

 当時はフィルム時代だから、映写室の暗がりの中、でっかいロール巻きのフィルムがカタカタカタカタ音をたてて廻っていて、1本の映画は複数のロール巻きを交換しながら続いてく。映写中、時にそれがちぎれるコトもありで、技師さんは上映中は動けない。

 その苦労を横目に、出前のワガハイは彼が食べ終わるまで、スクリーンを見下ろしてんだからエエ加減なバイト君だ……。

 なぜ指名されたか判らないけど、早出せよと命じられ、東映映画の舞台挨拶で来岡した若山富三郎渡辺美佐子さんの朝食をお世話したこともある。

 まだ新幹線がない時代ゆえ、お二人とも日帰りじゃなく宿泊されていたワケだけど、給仕ボーイが青い高校生だとは知りはしないだろう。メルパ(福武観光)は大胆なコトをしたもんだ……。

 そういうコトもあって、駅前メルパの撤退を心底、惜しんでいる。

 

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 ともあれ、そこでのファイナル鑑賞となるのが、『キングスマン/ファースト・エージェント』。

 もうアトがないから、しごく当然、始まる前の予告上映はない。

 口惜しいような未練ある悲哀が背中に駆け……、否応のない惜別の温度があがった。

 

 キングスマンという秘密組織の生い立ちを見せるこたびの作品は、オールド・ファッションな”時代劇”に仕上げた着想が何よりよかった。

 徹底した娯楽作品、過剰なほどの黒いユーモアに満ちたキングスマン・シリーズを、あんがい、ボクは好む方。

 前作2本が含有していた、下ネタ、エログロ、パロディ、荒唐無稽、が存分にまぶされた展開を、だからこたびもヤヤ期待した。チラシにも「超過激」の一語があるし。

 まったく意外なコトに、本作はそこを抑制し、前半から中盤あたりまでは“真面目”過ぎほどに“普通”な映画だった。

 普通というのはおかしいか。

 実は普通でなくって、物語の芯となる第一次大戦前のイギリス・ドイツ・ロシアの王室が血縁濃い従兄弟同士である史実を逆手にとったり、大戦の発端となるフェエルナンデス大公の暗殺などなどを練り込んで、実に巧みに史実を“キングスマン的史実”へと塗り替えての大騒動。

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 仔細を眺めるに、第一次大戦での塹壕戦の悲痛を描いた1957年のキューブリック監督の名作『突撃』で主役を演じたカーク・ダグラスにそっくりな役者さんを、同じ塹壕戦シーンに登場させるといったパロデイというかオマージュっぽいシーンなどもあって、前作とは趣き異なる手法でこの映画を製作していると判って、

「おやおや?」

 感心とヤヤ退屈をおぼえもしたけど、悪くない構成。

 退屈は、期待した展開と違うところから来るチョットした戸惑いゆえのもの、つまらないというイミでなし。

 ラスト30分ほどは従来のテーストが還った演出と速度で、ニンマリ。

 今後のキングスマン・シリーズ展開に期待を抱けた。

 

 当然にCGが随所に使われる。

 これでもかぁ~とばかりに、続々に登場するCGI映画連打には食滞してるけど、CGが嫌いなわけじゃ~ない。

 

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 レイフ・ファインズは007シリーズのMでお馴染みだけど、ヤヤ忘れられた作品に『アベンジャーズ』というのがあって、小粋過ぎて滑稽な英国情報部のエージェント役を実に真顔で演じて笑わせてくれ、以後ずっと気になる役者さんじゃ~ある。もっとも『アベンジャーズ』では悪漢役のショーン・コネリーがノリノリ怪演して俄然に目立ち、主役のファインズが霞んでチッと気の毒な感もあった、な。

 

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 さてと、『サンダーバード55/GOGO』。

 あえて60年代の人形劇を、CG使わず、人形劇のままに徹底して再現という試みが、何より素晴らしい。

 ただ、この国では、吹き替え版のみで公開というのが嬉しくない。”特別料金”というのもヘンテコリンで意味わかんない。

 英国での公開と同じくオリジナル音声で、字幕版として、創られたままの3部作をホントは観たかった。何も3本を1本につなげなくっともヨイのにね……。

 

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 シネマクレールで白昼に観て、後日、柔道家の車で夕刻のMOVIX倉敷に運ばれ、男3人でも観た。

 中年を超えたオジサン3人のデートは……、さっぱり華やかでない。ときめかない。

 いっそ小っ恥ずかしくもあるけど、模型趣味全開のポリスマンK君とは久々ゆえ、これはこれで大いに愉しくもあった。

 

 当然に『サンダーバード』は模型あっての映画なのだし、大のオジサン3人が童心に還るというよりは、童心みなぎらせ、

「やっぱ、2号だよなぁ!」

 とか、

「ペネロープ、いいね~」

 とかとか、見終えるや、なんぼ~でも話の輪が拡大するという点で、楽しくもありま温泉、

「ぁあ~、このぬる湯加減がイイィわ~」

 なのだった。

 

サンダーバード』の初放映は1966年。この1時間番組をライブでガッツリ観たのと、30分2回に分割しての民放での再放送(1967年より4年置きくらいでリピートされた)を初めて観たのとでは、すり込まれた形態が違い、以後持ち続ける印象に開きがある……。

 NHK放映では日本語の歌はなく、バリー・グレイの秀逸極まるインストゥルメンタルのテーマ曲がオリジナル通りに使われ、英国の香気みたいなのを放っていて、子供ながら感心したもんだったけど、TBS系再放送ではそこが例の、

「サンダ~バ~~ド~ ♫」

 に置き換わって、何やらいかにも“子供向け番組”という位置に置かれたようで、第1期の放送を観た身としてはいささか当惑し、残念に思ったもんだ。英国テーストが味噌汁テーストに変じたみたいな違和をおぼえたもんだった。

 こたびは、そこがオリジナルのままなので気分がよろしかった。

 ま~、もっとも、映画のラストでもって日本語の歌が入ってきて、これが、その直後のドラマにそぐわず、

「余計なコトをしてぇ……」

 おじさん3人は、ブ~ブ~文句を垂れるんだった。

 

 ちなみにNHKでの放映時、我が家はカラーTVじゃない。白黒だ~ぁ。

 なので少年雑誌や今井科学のプラモデルを手にして初めて、2号がグリーンだったり、4号がイエローというのを知って……、カラーTVに随分あこがれたんだわ当時は。その頃のカラーTV普及率はわずか3%だからボクちゃんのみ劣等してたワケでもないけど。

 

 はるか後年、模型業界に入って、その今井科学の社主とアレコレしゃべったさいは、すごい偉人に会ったような気がしないでもなかった……。

 

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         30年ほど前の写真  勝沢社長と私  コチラでも紹介した事あり

 

 映画館の中、画面を観つつ、

「昨今のCGもよろしいが、やはり模型が活躍の映画がイチバン、頼もしいなぁ」

 何も映画製作に関わってるわけでもないのに、妙に鼻が高くなるような気分になったのも、また可笑し。

 ま~、それほどに、こたびの映像は60年代当時の『サンダーバード』を忠実に再現しているので、その再現度合いに、『モスラ』の時には、眼がうっろ~んとなったけど、今回のは、眼が炯々しちゃい、かつ、ウットリするばかりで、爺さんが孫に逢うてるような気分もモ~クモクと燻るのだった。

 

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           昔のフィルムの一部を転用のため、今回の映画も画面比率は4:3

 

 60年代に創られたドラマ・レコードの音源をそのままに使った展開なので、ストーリーがど~のこ~のは大事でない。ストーリーそのものはユッタリしておおらかで、眠気を催す程度なものだ。(実際、2回とも、途中ウトウトしちゃったわ)

 復刻された人形たちやメカニックな諸々の活き活きを、それも60年代テースト真っ只中を眺めて愉しむという豪奢な次第が、なによりポイント。

 その意味でただタンに回顧的なだけの樋口真嗣氏の日本でのつけ足し演出はまったく不要と思われる。というより、足を引っ張ってる感が濃く、ダメよダメダメ、余計なものを足しちゃぁ。

 あと一言足せば、併映の人形劇「ネビュラ75」の意味するところを配給元の東北新社さんはもう少し丹念に説明すべきだった。『サンダーバード』以前の60年代に作られた『宇宙船XL5』を当時の雰囲気のままにリメークした作品の1部というコトを伝えないから、館内の方々は皆な、

「キョト~ン?」

 なのだった。

 

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60年代末頃のビートルズロールスロイス。で、同じロールスのお馴染みFAB1ことペネロープ・カー

   

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90年代に雑誌「モデルグラフィックス」に載せるために造られ、以後、当方宅にいる1/6-フル可動ペネロープ

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 1960年代が輝かしい時代だったとは思いもしないが、まだ将来(未来)に向けての夢があった時代だとは云える。

 なので学生運動を含め、皆さん、明日の明るさを求めて大いに闘争したのだし、『宇宙船XL5』も『サンダーバード』もそういう時代の中のヒトコマと思えば、懐かしみと、その懐かしさの中にいまだ未来に向けて進もうとしている熱エネルギーをも汲み取れて、諸々が沈滞している今にはない躍動が、この2020年代に製作された新作にはあって、そこがホンワカ嬉しくはあった。

 60年代に回帰するのでなく、良きところを汲み取って継承しようとの熱量を、あ・つ・い!、と感じ、ぬるま湯でない熱加減に肩やら腰やらが大いにほぐされるんだった。

 

 MOVIX倉敷もシネマクレールも空席だらけだったけど、イイのだ。むしろ、それで、

サンダーバードはボクとボクの近場のラブリ~なヒトだけのもんだじょ~」

 みたいな60年代に少年期を過ごしたマイ・ライフの妙チキリンをふりかけた、苦みある旨味も味わえて、今の子供にこの滋味を味わってもらいたい……、というような気分はコレっぽっちも生じないんだった。