飛鳥時代に入る直前、7世紀頃のモノと推定される中区賞田の唐人塚古墳。その界隈、20年ほど前までは、大きな石棺がおさまった巨石構造物として、在処がやや遠方からでも見えていたけど、近年に宅地化が進んで、存在が隠れ、薄れてしまっている。
容赦ない宅地化と、行政によるこの墳墓保存の熱意のなさを、いささか残念に思ってはいたのだったけど、つい最近は、古墳のすぐそばすぐ手前に、熱帯性のサボテンなどを専門にした植物園が出来ている。
企業経営じゃなく個人のものらしい。迷宮植物園と冠をつけた「バルタザール」という園名は……、17世紀のバロック建築家バルタザール・ノイマンが由来か? いや、あるいは、芥川龍之介の名訳でしられるA・フランスの『バルタザアル』から頂戴したのか、建立者(経営者)の“シュミ”が反映している感がなくもない。
やや大きめの温室とパン焼工房が置かれ、いずれも白色。真新しい白が陽光に映えて瀟洒ではあるけど、古墳すぐそばという立地を思うと、やや異界めいた感もなきにしもあらず。
某知人のご亭主殿は、この植物園について一言、「お金持ちの道楽」と切ってしまわれたけど、この国では珍しくって稀少らしきなサボテン系の種々を眺めると、
「道楽というか趣味というか、確かにその延長かもしれないけど、手入れと管理がメッチャ大変だろなぁ」
こっそり感心もするんだった。
スタッフだか奥さんだか、らしき方がアレコレ解説してくれ、
「とにかく湿気を嫌うんです」
とのこと。
なるほど、日本よりはるかに高温ながらメキシコ方面じゃ乾燥しきって汗は汗として流れず、たちまち蒸発という次第だけども、ここじゃ、そうはいかない。出向いた日も6月とは思えぬ暑さ。温室内もヒ~ト気味、たちまち額や首筋に汗が噴き出る。
高温多湿の環境下での栽培のしんどさは、たぶん相当なものだろう。
名を聞いたけど忘れた。これに触手のような長い枝が1つ付いて開花し、やがて……
丸っこいカタチのままに落下し、風に吹かれて転げ、種をアチャコチャに堕としていく。西部劇の主人公の背景で埃っぽい風と共に転がってるヤツの、これは親戚かな?
デザイナーが介入しているらしき体裁のいい同植物園のパンフレット。その一部分。ややピンと来ないキャッチコピーの難解さに、デザイン空回りの感もあるけど……。
祇園用水が眼の前。アユモドキの保護地域でもあるから、界隈は、ま~、もうこれ以上は宅地化は進まないとも思うが……、どうだろ?
いかんせん、針のような硬いトゲトゲ植物を当方好まないし、パン工房のパンのプライスが思ったものじゃ~なかったんで、買わず、早々に退散したけど、高温多湿な日本で種々アレコレのサボテン達を活かすのは、とにかく大変だろ~なぁ……、けど、趣味人には「大変こそが昂悦」みたいなトコロもあるんで、ヘンに心配しても意味がないな、きっと。
道楽であれ趣味であれ、無料での公開だし、古墳を含めてその環境を思うと、やはり、普通の住宅になるよりは、こういう“施設”の方が景観批評の点数も甘くなるような、感じ。造られたからにはながく続いて欲しい。
ところで……、これはボクだけのかな? サボテンみたいなトゲトゲなヤツを眼前にすると、なんだか無性に触ってみたくなる。
で、
「痛ってッ」
顔をしかめる。
判りきったコトを、何故したがるんだろ?