119年前の水害

台風12号
去ってみれば、大きな被害をもたらしてくれてましたね…。
亡くなった方、行方不明の方… が多々あったようで、実にお気の毒でありました。
我が方でいえば、12号の接近に伴って雨が増して近場の用水路が氾濫。
アレよアレよという間に道路が冠水して、車をガレージから出せなくなりましたね。
なので買い物に行けず、この夜は冷蔵庫のあり合わせで食事を間に合わせたのでした…。
(近所のスーパーが閉まる頃には水は退きだしてましたけどね)

岡山は意外と台風の直撃がない場所なんですな。
今回は13〜4年ぶりの直撃でした。
さてと、眼を過去に遡らせて明治の時代にまでタイムスリップさせますと… 今回のよりはるかにひどい水害をもたらした悪天がありましたよ。
明治の25年。
1892年ですね。なので今から119年前。
その7月に岡山は大きな水害に見舞われて、市内の広範囲が水没しちゃってます。
暴風雨。
まだ当時は台風という呼称がなかったのでしょうか。
で、ですね〜。
この嵐による水害に、1人の著名人が遭遇します。
まだ、その時点では著名でもなく、ただの学生ではあったのだけど… 夏目金之助といいいます。
後に漱石を名乗る御方。
詳細を省きますが、彼の親戚が岡山にいまして、大学が夏休みをむかえたので岡山に来ちゃってたワケです。
東京から神戸までは友達の正岡子規と一緒にくだり、神戸で子規は郷里の四国へ、金之助は岡山へと出向きました。
岡山の親戚の家は今はありません。
今は桃太郎通りという通りになり、路面電車が走ってますが、当時も今も街のほぼ中心あたりです。
この親戚の家のすぐ近くに天神山という、山というにはあまりに小さな丘があって、今はそこにオリエント美術館や後楽館高校が建ってますけど、そこに明治の時代に… なんとレジャーランドがあったのですな。
亜公園といい、その中央には8角形をした7階建ての展望塔があって、その周りにおよそ30数軒のトレンデイでオシャレな店が軒を並べてたんです。
射的場あり温泉あり宿泊施設ありで、牛鍋の店やらゼンザイ店やらやらもあるという娯楽の殿堂。
施設の中心にある7階建ての塔は集成閣といい、今の眼にしてみれば決してノッポな建物ではないのだけども、当時最大の高さであった岡山城よりも背が高く、なにしろ天神山の丘の上にあるから、一段に高くそびえたように見えて… 事実、市内を一望出来ます。
お江戸の時代が終わってわずかに20年ほどの時代ですよ。
なので非常に珍しく、また非常に"新規"なものでもあったんで、大人気の施設になりました。
記録によればオープンしてわずか1年で建造費を回収したという話です。
それほどにたくさんの人が訪れたのでしょう。
塔、集成閣への入場料は2銭。
で、金之助青年が滞在中の7月23日の夜中。
暴風雨で旭川の堤が決壊し、市内にどんどん水が入ってきました。
親戚の家(上ノ町・今の城下の近く)も水に浸かります。
それで金之助背年は丘へと避難しました。
上記の集成閣があり、その手前には県庁もあります。
かつては県庁もこの天神山にあったのです。
市内で唯一の丘でもあるから、暴風雨とはいえ水に浸らなかったワケ。
たぶん、市民の大勢がそこに避難したでしょう。
金之助青年はこの丘で2晩を過ごしたというから、水害のひどさがちょっと理解できますね。
なので、途方にくれてる金之助青年の目にはまちがいもなく、その7階建ての塔が高々に映っていたでしょう。
当然、この塔は今はありません。
金之助青年が途方にくれて2晩を過ごした、その10数年後には亜公園は売却され、県がそれを買い、塔は大改装されて図書館に変わるのです。
岡山県立戦捷記念図書館」。
いぜん、このブログでも紹介した、あの図書館に変身するのですわ。
今はもう、岡山に住んでる市民のほとんどは、その亜公園も集成閣も、変身した図書館も… 知りません。
まして夏目漱石が途方にくれてトホホな顔をしてたコトも知りません。
そんな次第あって、これを模型化しました。
この塔の話は、来る11月6日に岡山市デジタルミュージアム講演しますので、ちょっと詳しくお話し出来ようかと思ってますが、色々と面白いエピソードがあります。
ともあれ台風12号の災禍をまのあたりにして… 100年ばかし前のコトを思い出したボクでありました。

※ ちなみにこの水害のひどさに直面した金之助青年は親戚宅で樽の上に畳をのせて寝ざるをえないといったヒドイ状況で下痢します。
なので岡山逗留をそれで諦めて、お友達の正岡子規のいる四国は松山へと移動します。
この松山行きが縁で彼は後に松山で教壇に立つコトになります。
あの高名な小説「坊ちゃん」へと結ばれていくわけです。
なので、もし水害に見舞われなかったら、漱石は松山へ行かなかったかも知れないのです。
そうすると「坊ちゃん」は生まれなかったでしょう。
面白いと思いませんか…。