潜水艦を見にいく 〜海上篇〜

ラッセル・クロウが好演のピーター・ウェアー監督『マスター・アンド・コマンダー』は海洋映画として実にまったく秀逸で、帆船の狭い空間の中において高らかな規律を維持する凄みがよく伝わる。海の男は神経が太い線になってなきゃつとまらんぞと… こっそり思う。
ノウチラス号は軍船ではないけれども、やはり規律が、船内における掟があったわけで、そこをヴェルヌは書いていないのが… 今になってちょっと不満をおぼえだした。
なるほど仲間のための海底墓地などの描写はあるにしても、ネモ個人の呻吟とデカダンを含有した生活と仲間のそれをどう合致させていたのかしら? と新たな興を抱いてしまった。
『マスター・アンド・コマンダー』には小学生くらいな貴族の子が将校見習いとして乗船していて、けれど彼らは大人としてキチリ扱われ、また彼らもそうふるまい、徴兵されている船乗り(未成年者も多々いる)もその存在に敬意をはらうという史実が描かれている。

今現在のボクらからしてみれば実に不思議な感触ある、その階級社会。
海底二万里』のネモとその仲間も、たぶんに、差違が敷かれた世界の掌の内の話ではあるけれど… ネモははたして本当に何を求めてのノウチラス号の建造と就航と旅だったんだろうか… 陸上展示の物体としてデッカイ「あきしお」に接して、あらためてそんなことを思いかえした。
家族を失ったネモとその仲間はただ一重に海の底での静かさを望んでいたはずだった。それがどうよ…。
遁走のさなかの微かな光明と宿痾の悲しみ。
仲間の絆。 
そして、世界を遊んで一瞬の旅の果てに何を得たろうか。


「てつのくじら館」近くのフェリー乗り場から、呉港内を遊覧できる船が出ていて、潜水艦のそばにも行くという。
その名も『艦船めぐり』。
乗ってみた。
呉は潜水艦の基地なのだから、現役の潜水艦が複数停泊しているわけなのだ。


極めて空母に近い形の「ひゅうが型護衛艦」など大型の艦船複数がツイタテのように並んだその向こう、波静かな小湾に、この日は4隻の潜水艦がいる。
クジラを見るんじゃないんで、"いる"というのもおかしなもんだけど、国防として隠密性高きの乗り物ゆえ、いつ出港するんだか寄港するんだかは公表されていないから、"いる"としか表現出来ないワケなのだ。


映画『クリムゾン・タイド』でデンゼル・ワシントンジーン・ハックマンが乗艦するシーンに出て来た同じ光景が眼の前にあって、渡し通路のそばには衛兵だかが立ってる。
ハッチがグリーンのシートに覆われているのは、ハッチの厚さが秘密になっているからとのこと。その厚さで何メートル潜れる船なのかが計測出来るらしいので、そこを知られちゃマズイと… シートでくるんでいるそうな。

実際に海水に浮いたホンモノというのは… 単純に申して、やはり格好よろしい。
「あきしお」見学で内部のベッドサイズなどを承知したゆえ、ノウチラス号内装の豪奢を幻視するには脆弱ながら、浮いている黒い佇まいは格好がよろしい。
陸揚げされている「あきしお」よりも、実はこの海上の光景の方がノウチラス号を濃く意識出来るのは… やはり多くの部分が海中にあって見えないところがイイんだろうね。
見えないことで空想がふくらむんだ。
海底二万里』に描かれるノウチラス号と眼の前の自衛隊の潜水艦はま〜るで違うカタチだけども、
「潜っちゃうんだぞ」
の迫力が透明な裏打ちとなって、想像の芯が屹立するんだね。


小説上の潜水艦とホンモノとを混同させるのは、あんまりよろしくないけども、"男の最後の逃げ場ないしは隠れ家"という辺りをテーマに考えますと、やっぱり、葉巻状の筒はカタチとしてまことに落ち着きがあるんだ。
ある種の暗示というか、秘匿がカタチになって、醸される雰囲気が独特なのだ。
これが、海面に出てる部分が白や赤だとチョットいただけない。
色の主張を殺してただのブラックそれも艶消しの、というのがよろしい。
いや、もちろんイエローサブマリンの場合のみは、イエローじゃなくっちゃいけないけど、我が心のノウチラスはブラック。ちょっとブラウンが部分にあっても基本は黒だな。


黒という色はとても難しい色だ。
その昔、東宝撮影所にて撮影中の『ゴジラビオランテ』を取材したさいにも、それは濃く意識されたことだった。
撮影用ゴジラスーツは、いわばただの艶のない黒1色なラバーなのに、いざや照明があたり、火薬が弾け、シッポがふられ、フイルムに定着するや、その表皮には色々な色が見え隠れする。
黒は黒だけど、淡かったり濃かったり、灰色がかったり、時に白く部分が輝くようなこともある。
そういう吸収と発散の面白さが黒にはあるから、だから、難しい。そこを模型として表現する場合、黒はホントに… 難しい。
幻視のつもりが、いつのまにやら模型表現を「どないしょ〜」な方向に落ち着いていくのが哀しいけども、実際こうして撮った潜水艦写真を眺めてみても、さほど黒な感じがしないのが、黒の特性だ。


さてと…、ミヤゲだ、土産の話だ。

呉では戦艦大和をモチーフにした土産が主流で、潜水艦に特化したのはあんがい少ない。
自分用に買ったクラシカル・エレガンスな、いかにもジャパン的パッケージのせんべい。
けど、なんだか… 箱をあけると、おみごと、全部、割れてましたわっ。
ううん、沈むよ〜〜 。

でも、せんべいより今回は、スチールケース入り「旅行の友」じゃな。
広島や岡山でこのフリカケを知らない人は、たぶん少ない。
まずい… の代名詞とボクはなが〜く久しく思ってた。
量が劇的に多いのにネダンは安い。
我が家では、ボクが子供の頃はフリカケといえばコレであった。
丸美屋の「のりたま」はめったに買ってもらえない。
なので、申し訳ないけど、そういう顛末で今は見向きもしないフリカケなのだった。
けど、スチールケース、かつ、復刻版というのが… こたび気になった。
"御飯にかけてステキにうまい"
のフレーズも良いじゃ〜ないか。

大和ミュージアムのショップでこれを見つけ、買って、さっそく試してみましたら、
「あらま不思議や」
風味もよくって、美味しいのだ。
50年前にボクの舌が知覚したものとコレは別モン? と思うほどに。
とくに風味がよろしゅう御座います。
で、気づいた。
従来味わっていた… あのまずさピカ1は、量が多いゆえに必然として常に食卓に置かれていたもんだから、湿気ちゃっていたんじゃなかろうか。
なので、きっと、風味もトンじまって、どこか全体にベッチャリしちゃって、不当にまずくなって「旅行の友」の名をいっそうに貶めていたんじゃなかろうか?
そうであるなら、そのお得感いっぱいなボリュームがゆえに「旅行の友」は謂われなき誹謗を一身に受け続けていたということになる。
開封したら、サッサッと使うべしなのがフリカケだ。
というワケで、呉に旅行して… 広島産「旅行の友」再認識。
『ノウチラス号と旅行の友』、とタイトル付けりゃ良かったかしら。


追記:
今回一緒に出向いた福山在住のZANERI君。上記の土産を物色しているさい、はぐれてしまい、「さて、どこへ行ったかな」とキョロリ辺りを見廻すと、大和ミュージアムの例の巨大模型の真ん前で、”記念写真”を撮ってもらってた…。
いますね〜、こういう人が。ボクは出来ないなァ。
聞けば、
「1000円とられた」
とのこと。(苦笑)