ネモ船長と海底都市


配給権を持ってる映画全部、大昔のものから最近作まで6000本ほど、DVDとしてホームユースに市販されていないものを、たった1本の注文でもオンデマンド、DVD-Rに焼いて個別対応で提供する米国ワーナー・ブラザース。
いわば川の底に埋もれた古鉄(しさん)を回収して販売するような細やかな仕事。映画会社の栄枯盛衰が厳しいから、著作権利が移動した古いMGM映画など、かなりの数が含まれる。
それを1本単位でオーダーでき観賞できるというのは… ありがたい。(2009年より)
残念ながら、基本として米国内でのサービス。


幸いかな、膨大なコレクション中からチョイスという形で、日本国内で字幕をつけて販売という作業もはじまって久しい。
その流れの中、入手した2本。
見れば確かにDVD-R。1枚ごと焼いたのね…、と判って、何やら妙にくすぐられる。
安いわけでもないけど、稀少ゆえの価格とこれは了解しよう。



『ネモ船長と海底都市』 
  原題:CAPTAIN NEMO and Underwater City
アトランティスの謎』 
  原題:Amazing CAPTAIN NEMO


前者は1969年作。後者は1978年作。
どちらも名作でも傑作でもない。怪作ともいいがたい。ベチャ〜っと云えば駄作。
50年代から70年代にかけての米国の田舎町に多々(4000館オーバー)あった、"ドライブ・イン・シアター"で、彼女とイチャイチャしつつ車内で眺める程度な作品。
米国内向けのTV用に作られ、1回放映され、その後に編集を加えて劇場仕様にしたというだけの、モノ。
スクリーン・サイズは4対3。
「なんでこんな映画をワタシと観たいのよ」
いま彼女がいるとすれば…、当方への失望で爪をこっそり噛むだろう。




『ネモ船長と海底都市』では、ネモが築いたドーム都市が深海1万8千mに設けられたと説明されつつ、主人公たちがダイバースーツで泳ぐ景観と魚たちは、ロサンゼルス界隈の水深2m程度な所で幾らでも見られる珊瑚や魚だと憤慨するだろうし、いかにもミニチュア模型でござい〜の特撮にも、きっと彼女は鼻白むであろう。
カブトガニの親族めいたノウチラス号のデザインも秀逸には遠い。
「くだんね〜」
彼女の顔にそう書いてある。
けれどボクは、黄金まみれ…、というか、そのドーム都市の中心的装置たる水を生成するマシンの、余剰副産物がゴールドだという、それでゴミ捨て場に黄金が山と積まれている、11歳の少年でもアホらしいと思う逸脱な設定にこの映画の"華"をみる。



水の生成マシン。この"神像"感覚は、とてもヨイ。


海底1万8千mでの客人の歓待にテルミンが用いられているところなんぞにも、「ほほ〜」と撮影当時の時代の香りを味わう。
全体はダメダメなれど部分に光るところがアルジャジ〜ノと、細部の温度の高そうなところで眼もぬくもる。



きっと原作者ヴェルヌとて大いに悲憤の内容ながら、作品として生を受け、こうしてDVD-Rとなってはるか後年のボクがそれに接することが出来ているという、その悦びを歓びとして味わえるのがポイントだ。
999人にはショ〜もない作品でも、ただの1人はこうして評価し、マルとペケをあたえることが出来る、このDVD-Rでのサービスは… とてもいい。



1978年の『アトランティスの謎』。
なんとも牧歌な脚本。『スター・ウォーズ』第1作目の公開翌年の作品とも思えぬ、けれどちゃっかり『スター・ウォーズ』的光景を挟み込み、音楽に至っては1部で、
「あれ〜!?」
と、耳が立っちゃうようなパクリあり。



柳の下のドジョウ的スペースオペラじゃ能がないだろう… とヒトヒネリして海底へ…。
冷凍睡眠中の19世紀末のノウチラス号とネモを現代に蘇らせたのはよかったが、アメリ国防省と手を組んで、マッド・サイエンティスト率いる謎の潜水艦と闘いだすネモの動向は…、ジョン・レノンが夏の盆踊りで30cm口径程度なスピーカーで声を張り上げているようで、よろしくない。
その過程でネモが海底王国アトランティスを発見するというのは許すが、王国にしちゃ〜登場するのはたった1室。しかもセットの横幅が小さく、登場人物たちは全員棒立ちで会話。
映画は時に想像力を要求する場合もあるが、この場合、あり過ぎ。
数万の人が住まう海底王国を6畳の間1つで描こうとする、その凝縮が光る。



ネモ役は『砂の惑星』で大王皇帝を演じたホセ・ファーラー。マッド・サイエンティストはTVシリーズの『バットマン』でたえず滑稽ゆえ時にバットマンを上廻る人気となったペンギンを演じたバージェス・メレディス
この2大俳優のキャラクターを活かせきれない演出のまずさが… また、とにかく光る。
低予算モード全開で苦笑が続く。
が、また一方で、豪奢なマンション建造を夢見たものの出来ちゃったのは4畳半と3畳の間の文化住宅でトイレは共同ね、もちろんお風呂ナシ…、というアンバイな低予算がゆえに出来なかった諸々を抱えた製作者の悲しみもチラホラ感じられ、奇妙な同情もわく。



なるほど、観客動員出来なかったワケもよ〜く判りますワ、という再確認も出来る希少性が、このDVD-Rという次第。
万人向きではない。
デートの電圧もさがるに違いなく…、推薦しかねる。
というよりも…、デートに選ぶかこの2本を…、が本音。1978年当時の"ドライブ・イン・シアター"で、もしもこの映画を観た後に、
「良かったね〜」
「ええ、ホント」
しっかり絆を結んじゃうようなカップルがいたなら、ボクは逆に、
「ぎくっ!」
訝しむ。
けども繰り返すが、こうして今、DVD-Rというパーソナル・メディアで観られるのは、ありがたいコト。
貧して鈍した末で1粒のお米の煌めきにうたれるみたいな、逆説を"愉しめる"という点もポイント。
180人には無価値でも、1人にはイミテーション・ゴールド。一瞬の輝きこそが命の2本だて。