スペーススーツ

 夏を迎えるこのシーズン、だいぶんとサマー・モードになったとはいえまだ油断出来ないところがあって、昼と夜の気温差を想うと、お出かけ時に着るものをチョイ考えなきゃならないのが、面倒といえばメンドウ。

 白昼はよいとして、昼夜にまがたる外出となれば、Tシャツ枚では不安だし、かといって上着をつけたらつけたで暑かったりも、する。

 一昨日、我が宅に御前酒1本さげて訪ね寄ってくれた県北は蒜山の住人N君は、「朝はまだマイナス気温です~」ニヤリと笑ってた。

 そういう点でいわゆる宇宙服というのは四季が問われない性質なので、お出かけ時に躊躇が、ない。

 

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                フランクリンミントの模型

 

 ま~、あたりまえといえばあたりまえだけど、この服は地球上ではてんで役立たないシロモノの代名詞になるけど、いざ宇宙に出ると超絶にモードシーンのトップに躍り出る。なんといってもスーツなのである。

 かぐや姫とその従者たちは地球上の衣装のままに月に移動しちゃって平気なんだからカッコ良いったらありゃしないし、地球に縛られてはおりません……、大気依存症でない確固たる自信をみせつけてくれもするのだったけど、それのみ例外、多くの場合やはり、宇宙服がないとチョットしんどい外宇宙。上下揃いのスペーススーツは外せない。

 

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竹取物語 貼交屏風(はりまぜびょうぶ)」立教大学図書館蔵。江戸時代に制作された竹取物語絵の一部。月から使者の女官たちがかぐや姫を迎えに来たところ。

 

 宇宙服も研究レベルでは随分に発達し、いずれはボディ密着の、すなわち身体のラインが露骨に出ちゃうけども快適で動きやすいものが登場という予測もあるけど、現状はまだまだ従来通りの、いわば旧スタイルが主流。

 けども旧スタイルとはいえ、カタチとして意外と色褪せしないのは不思議。

 

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ジェミニ計画でのニール・アームストロング(1964撮影)と、同計画での初遊泳中のエド・ホワイト(1965年撮影)

 

 たとえば映画『2001年宇宙の旅』は1968年公開だから、もう51年も前の作品ながら、登場した宇宙服はほぼまったく色落ちせず、今もって現役の新鮮を保ってるのも不思議。ごく最近になってアクション・フィギュアとなって販売されたりもして勢いも落ちない。

 

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 逆に、最近の映画『オデッセイ』で火星に取り残されたマット・ディモンの宇宙服や、『インターステラー』のそれらですらが、『2001……』の延長上のカタチでしかなくって、ほとんど見栄えをおぼえなかったりもするのは、1960年代発の宇宙服スタイルがいかに抜きん出ていたかの証しとも、なろうね。

 もちろん抜きん出てるとはいえ、構造上、ヘルメットはボディ部にガッチリ接続だからヘッド部分は常に真正面しか向かず、着用の人はヘルメットの中でもって頭を動かすしかない。頭を動かせるだけのスペースが必要なデザインでしか、実用に耐えない。

 『インターステラー』ではロシアのスーツをモデルにしたと思われるし、ヘルメットは、頭の動きにあわせて多少は左右上下に可動するというカタチを見せてくれてはいたけど、サイズ的にはどうだろ? ちょっと窮屈っぽかった。

 

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   米国の小さな模型メーカーMARCO’S MINIATURESが販売のロシア宇宙服と米国のそれ。

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            GIジョーのシリーズ。マーキュリーカプセルと飛行士。

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             同じくGIジョーのシリーズ。バズ・オルドリンさん

 

 むろんに、『2001……』の宇宙服が当時のNASAの最新スーツの援用ではあることに間違いはないとしても、何やら普遍不変なるもののカタチが1950年代から60年代に生じて今に至ってるというところからまだまだ抜け出せないでいる「今」という時間を、ちょっと思わないではいられない。

 

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            フランクリン・ミント製 月面車とアポロスーツ

 

 比較するのは気の毒ながらTVシリーズ『謎の円盤UFO1970に登場の宇宙人がつけてた宇宙服なんぞは、はなっから色褪せ甚だしく、リング・チェーンのあしらいに、

「古ッルう~~

 当時ライブでTVを観ながらガックリだったけど、逆にそれは稀有なスペーススーツで、概ねで、実際のそれもSF映画のそれも皆な、ひどくは悪くなかったし、今も遜色減退していないから、ま~、宇宙服というカタチには、流行に左右されず、四季にも時世も関係なく、そういう諸要素が忍び寄れない性質が濃くコーティングされているんだろう。生存環境として馴染まない場所で着用するのだから、個々人のファッション気分なんぞは関係なしの有無を云わさない必然という気配が、宇宙服の描き方として要めなのじゃあろう。

 

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               『謎の円盤UFO』の宇宙人のスーツ

 

 ま~、だから逆にいえば、『謎の円盤UFO』の宇宙人の着衣は、そこに60年代末にパリ発のモード先端であったシャネルの「クラシックフラップバッグ」を筆頭にしたリング系アクセサリーを大胆に取り入れ、さらにこれまた当時大ヒットとなった「サファリ・ルック」なテーストを加味したばかりに、かえってオールドファッションじみた滑稽となったという悲喜劇な味わいとなっちまったと、やや同情的に眺めることもまた可能だろう。

 この衣装デザインはシルヴィア・アンダーソンさん。『サンダーバード』での衣装デザインは大成功だったし、敬愛している女性の1人じゃあるけれど、唯一の彼女の失敗がこのスペーススーツだったと思える。地球外からやって来た者に地球での流行りを取り入れちゃ〜イケナかった。

 

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     シャネルのクラシックフラップバッグ        60年代サファリ・ルック

 

 近頃のニュースで知ったけど、ISS国際宇宙ステーションで2人の女性飛行士による初めての船外作業が企画されたものの、女性にフィットする宇宙服が足りず、結局、企画は泡と消えました~とのこと。

 聞いてなんだかバカバカしいような、貧果な予算事情が透けちゃって悲しかったりもした。

グレート・ギャツビー』の主人公みたいにワードローブに着替えのシルク・シャツがズラリ並ぶはずもない宇宙ステーションながら、1着のゆとりさえない衣装実態に、残念というか、ヤヤ寒さをおぼえるのだった。冠婚葬祭用の夏服って、ゴメン、持ってないのよ〜とは別次元の問題と思えてしかたない。

 下写真。計画断念でメリル・ストリープが怒ったような顔のクリスティーナ女史。

 

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 さてと『2001年宇宙の旅』のスペーススーツ・フィギュア。MAFEX製のノンスケール(概ね1/12かな)フィギュア。

 良く出来ていて感心したけど、黒塗りのバイザーだけじゃつまらないし、価格が倍の2万円くらいになったとしても、これはやはり1/6にスケールアップで、バイザーの内側に人物のヘッドがあるという仕様で販売して欲しいもん、ダ。

 それに、いささか足が長すぎる。もうミリ詰めればよりリアルなものになったろうと、惜しむ。

 しかしこたび、模型たちに触りながら想ったけど、『2001年宇宙の旅』のラストシーンは、宇宙服という点のみでも象徴的だね~。かのスターチャイルドはもはやその宇宙服を必要としない”存在”なんだから。

 ま~、いまさらあらためて云うことでもないけど、たまたま別スケールの模型と写真撮ってて、フッと。

 

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