夜の町・レモン

 

 およそ2ヶ月ぶり、外で呑む。

「や~や~久しぶりぃ」

 と、笑う。

 自嘲がちょっと入ってる。

 

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 町中に住まってるのと、ちょい郊外に住まってるのとでは、あれこれの接し方、感じ方に差がある。

 まして自営で終日部屋に垂れ込めるようなアンバイで郊外に住まってると、ネットやテレビのニュースでしか世間を覗えないから、それでもって状況を掌握するしかなく、数キロ先の町中の様子は、おぼろ。

 なんだ、こんもんかっ……。

 おや、そんな風になっちゃったか……。

 だから、自嘲っぽい笑いが浮く。小さい粒々みたいな感慨が幾重か浮いては消える。

 ま~、けども馴染んだ顔ぶれに店で出くわすと、あれこれ溶解、杯かさねる内に、

「でっへっへへ~~」 

 無垢に笑ってもいる。

 

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             夜景:出来上がりつつあるRSK山陽放送新社屋

 何人かに、

「今年のジャズフェス、どうされるんすかぁ? やるんですかぁ?」

 問われ、さらに、

山陽放送でやるんですようねぇ」

 8月の講演についても問われる。

 後者に関しては、

「申し込みが必要だから面倒でしょ。なのであえて来てくれ~、とは云いませんぞぅ」

 内心とは裏腹に云い、笑う。

 前者に関しては、まだアナウンス出来る状況にないけど、3密回避だの2m間隔でのソーシャルディスタンスだのが9月末や10月も適用されるのかどうか、まったく不明。集団感染時の追跡調査が行える環境を整える……、みたいな難儀な拘束もある。

 鮮度のいい空気が流れはじめたとは今は云いがたい。

 

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 3月の末に植えたレモンに、花が咲いた。

 白い花。

 レモンの花を、レモンのそれと意識して見るのは初めてゆえ、

「黄色じゃないのねっ」

 おバカな感想をこぼしてる。

 見た目、植えた直後のままのようでもあり、成長を感じていなかったのだけど、こうして花がついたということはそれなりに育まれているのだろう。

 植えるという行為は常に結果を期待してのものなので……、植えてまだ数ヶ月のレモンが3倍にも5倍にも大きくなるはずもないけど、植えた方としては最終結果として樹木に育ってるレモンを幻視してもいる。

 焦ってるワケもないけど、幻視としての緑々とした葉のおごりや、そこに成ってるレモン果を見てる……。

 そういう結果主義っぽい気分が先行するのが、ヤッカイだ。

 

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 アルコール飲料にレモンはよく似合う。

 例えば、不幸にして今、同じ名というコトで売れなくなってるコロナ・ビールなんぞは、栓を抜いた小瓶の口からレモンを抉(こ)じ入れて呑めば、キリリとした旨味がさらにシャープになって旨いコトこの上もない。輪郭のエッジがたってくるんだにゃ。

 爽快に爽涼が加わり、運動会じゃビリっけつで駆けたけどイイのだ、転けず1周出来ちゃったコトこそ大事じゃ~ん、って~なワケわからん豪快気分が口から喉にかけて拡がってくんだな、これが。

 本場メキシコじゃそんな飲み方しない、という話もあるけど、ライムだのレモンだのがコロナの地味を昂ぶらせるのはわるくない。

 

 レモンというのは日焼けた男に、似合うような気がしないでもない。

 椎名誠がグラスに焼酎を注ぎ、レモン1ケまるごと手の平でギュ~っと絞って、人差し指でグルグルかきまぜ、

「ぷはっ、旨まっ」

 グラス1杯いっきに飲むのを想像するがいい。

 あるいは、映画『刑事ジョン・ブック 目撃者』でのハリソン・フォードを想像せよ。

 納屋の中、差し出された手作りレモネードを彼がこれまた一気にゴックンしたさいの、差し出した本人たるヒロインが受けた唖然かつ陶然とした感触のリアリティ~って……、最高だったねぇ。

 

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 もちろんこの場合ノンアルコールだったけど、夫を亡くしてるヒロインの心が大きく動く、この映画の核となるシーンだった事はマチガイない。

 異性にときめくのは、そういう何でもないちょっとした、見られてる当人はまったく無自覚な行為だ。飲むのを見てるヒロインと飲んでるヒーローはこの時、心の交流はない。けども交錯した瞬間ではあって、そのレモネードをゴックンでもって、ヒロインの方に情動の電流が駆け出しはじめる。

 一気に飲み干し無言のままに眼で「旨かったぜ」っと礼された彼女は、その瞬間、自分が手作りしたレモネードを旨そうに飲んでくれた喜びを発火点にして、夫以外ではじめて、”チャーミーな男を見た”わけだ。

 そこの対比としてこの映画は、同じ村に住んで彼女に恋している男が同じく手作りしたレモネードを、旨いとも云わずただ飲むだけで作って提供したことの感謝すらない、その男の薄情を対比的に浮き上がらせている。

 

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 以上は、レモンがらみは一気に飲め、というワケでなく、そのような一気に似合う男とレモンの関係は何だろう? という考察まじりでのカッコ良さについてを云ったまで。レモンをチビチビ囓ったって別にわるか~ない。

 庭に植えたレモンは今年来年は実らないと”説明書”に書いてあったから、今はただただ育っていくのを見守るだけ。

 要はなが~~い付き合い。果報は寝て待て、だな。

 ぁあ、もちろんこの場合、放ったらかしておくというイミじゃない。育みを助成しつつを愉しむという次第で、日々の観察とお手入れをば、しばしは愉しもっと。

 レモンは育ちの初期段階ではけっこう大胆に枝をカットするのが良いらしいのだけど、どう切ってよいのやらまだ、判ってない。

 

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