のつぼ

9月の中ごろを過ぎた頃に外電として報じられた、「火星に謎の穴」はなかなか興味深いニュースだった。

米航空宇宙局(NASA)は21日、火星周回探査機マーズ・オデッセーが軌道上から撮影した火星表面の写真に、地下の洞くつの開口部とみられる地形が7カ所見つかったと発表した。専門家らは「過去に洞くつ内で生命が存在した可能性もある」と指摘している。
問題の開口部は南半球の極付近にある火山「アルシア山」の斜面にあり、直径約100〜250メートル。「セブン・シスターズ(7人の姉妹)」と命名され、それぞれに女性の名がつけられた。同山の頂上は周辺の台地より約9000メートル高い。
マーズ・オデッセーに搭載された赤外線カメラで昼夜の温度差を計測したところ、周辺の地表より昼は温度が低く、夜は高いことが分かった。米地質調査所の研究者らのチームは、地下にある洞くつの開口部だと推測している。
毎日新聞 2007年9月22日

そのアップの写真を見て、ヴェルヌの「地底探検」をば想起させはしたのだけど、も一つ、思い浮くものがあった。
野壷、だ。
野壷といっても、近頃の人は判らんだろうけど、昭和の40年代半ば頃までは、どこにで〜もあった。
生れた津山にあったし、越してきた岡山にもあった。
畑の隅っこなんぞに設けられた肥溜(こえだ)めだ。
人糞をいれ、畑にまく。
これが常時、活性し、すなわち、たえず使われているものならば、それなりの臭気とビジュアルでもって、
「おっと、ノツボだ・・」
そこに足を向けるコトはないのだけど、野壷というのは、ちょっと放置されてると直ぐに草が生えたりして、一見では、それだとは判らなくなる。
津山で、自慢じゃないが我が弟なんぞはコレにはまった。
柿を盗み喰いしようと、どこかの畑を突っ切って、めざす柿の木の手前にて、
「ズボッ・・」
片足を突っ込んでしまった。
幸いかな、浅い野壷だったので片足だけで済みはしたけど・・ 美しいものではない。
この丸い野壷が、こたびの火星の写真で蘇った。
まさに、こんなカタチなのであった。
もっとも、火星のそれは幅が100メートルを超えるデカイものだ。
デカイといえば、通学路の傍らにデカイ野壷があった。
岡山は高島地域での話。(5年生で津山から転向したのだよ)
これはコンクリで造形された本格的なもので、だいたいが3メートル四方の、いわばウンコのプールだった。
今でこそ界隈は宅地化が進んでしまったけれど、当時は田園地帯で見晴らしもよく、自ずと畑の肥料ともなれば人糞がおおいに活用されていたのだろう。
それが、冬になると、表面が凍えてかたまってしまう。
秋頃に、ひからびたその上層部にペンペン草も生えるから、そうなって来ると、ウンコのプールとは思えない風情になる。
で、冬の某日、通学していたボクらの眼の前で、そこに真っ白い犬が落ちた。
そうとはと知らず、白い野犬は草が生えたその上に乗っかって、ちょいと歩いてしまったのだ。
「やばいな〜」
と、見つつ思ったんだけど遅かった。
「ジュボッ」
てな音と同時に犬は、落ちた。

片足なんてもんじゃないよ、いったん完全に沈んだよ。
直ぐに浮き、犬かきでもってもがき、ヨタヨタッとコンクリの縁を掴んで上がってきた。
真っ白い犬は茶と黄に色を変え、全身から湯気がたっている。
これが、這い上がってくるや直ぐ、ブルブルブル・・ 身体の総毛を震わせた。
「で〜っ!」
ボクは駆け足で逃げ出した。
道を外れ、田んぼに逃れ、そこを右に左に、必死。
当時、6年生は、地域ごとに1年から5年生までの子らを引き連れて学校に行くコトになってた。先頭と末尾に6年がいて、1年から5年までがその中にいて列をなして学校にいくんだ。
その時、ボクは先頭にいて・・ それが率先して逃げだしたワケだ。
そうするとどうなるかというと、ホクの後を隊列崩さずに10数名の1年から5年までがくっついて駆け出すのだ。
散ればイイものをそうせず、我が輩のアトを一糸乱れず、1年生から5年生が、ダンゴのように逃げ駈けるのだ。
当然に犬が沈没して這い上がって来たのは全員が見ているワケだから、1年生も、「ひ〜っ!」
4年生も、
「げ〜っ!」
てな叫びをあげているんだけど・・ なぜかボクを先頭に一列だ。
ところが、犬というのは何かしらんが、駈ける子の後を追う習性があるよな。
従って、こちらが駈ければ犬も駈けると・・。さりとて、犬は身体中がウンコまみれなのだから、そばに来られると困るのだ。逃げるっきゃないのだ。
もうね、必死だよ。
逃げる。
追う。
逃げる。
追う。
でも、なぜか一列のおダンゴ。迷走列車だ。
というようなコトを思い出させてくれた火星の謎の穴。
よもや、火星人の野壷ではあるまいが、穴の正体を早く知りたいもんだ。20度〜零下130度と寒暖差が激しい火星において、この穴は寒暖の差が地表の1/3くらいしかないそうであるから、相当に深い穴だと推測できる。
中に入ったら、どんなものを見るコトになるんだろう・・。