我慢時間

いささか退屈な新幹線車内。
ちょいと前まではまだ喫煙車輛もあって、お好きな時にプカ〜リ自席でやれたけど、今はかなわず、やむなくも、狭い喫煙ルームまで出向かにゃならん…。
集中力が足りないのか、ボクは毎回に本を選んで持ち込むけど、チャンと読めたことがない。
せいぜい1章の半分を読めるかどうか。


1つの車輛にかならずノートパソコンを開いてる人が2人くらい、いるね。
今は各席で電源をとれるので便利になったけど、でも…、
「何してんだろ?」
と、常に思っちまう。
そこまでして仕事するか?
ただの、忙しいポーズか?
その集中力っぽいカタチをボクは真似ることが出来ないから、しょっちゅう席を立っては喫煙ルームへ。



このブログを読んでる方の多くはシガレットを嗜まないであろうから、では、そのルームを… ご紹介。
自動ドアが開くと5人が並んで立つコトの出来る小スペース有り。
1歩で入れるけど2歩足りとも前進は出来ないという狭い幅。
そこに5つ、ミニな便器のような灰皿。
その内側に強靱な換気扇有り。
火をつけ、吸う。
はく。
5人並んで一方を向いて、まるで男子トイレがごとく。
よって6人めは自動ドアの前で交代を待つ。
窓はルーム中央位置に小さいのが1つ。
外側から"不浄"は見せませんという風情ながら、利用者としては、いわば… 牢舎。
ユルユルと滋味味わいつつ哲学しちゃうような、"自分時間"を遊べる場じゃない。
なので、否応もなくセカセカさせられる。
タバコを嗜まない方には何のイミもない、いっそ邪魔な嫌悪すべくな場でしかないだろうけど、シガレットに諸々を見いだしてる人間にとっては、車内唯一の砦。
やがて数年後、この車輛の更新時期が来る頃には、砦は陥落し、新たまった車輛はどこにもシガレットが入り込む余地のないものに成り下がるんだろうけど、2013年夏の今はまだ、狭いながら、こうやって場を許認されてる。

車で東京へ向かうさいには、新幹線が便利良いな〜、速いし〜、と思ったりもするけど、のぞみ車内にいる間は、わけてもその喫煙ルームにいる時には、
「ゼッタイ車がいいわ」
と、1人こっそり歯噛みする。
新幹線移動は、忍耐シンボ〜な、"我慢の時間"のようなボク。


こんな話がある。
地獄に堕ちたハナシ。
赤鬼にせっつかれて案内された場所には、針の山と、オシッコとウンコをためた巨大池。
「どちらかを選べ」
とのこと。
見ると、針の山では裸で大勢が寝そべっていずれも出血、全身に針が刺さって顔を痛みに歪めて脂汗を流してる。
一方のウンコとシッコで汚濁の池。大勢がそこに肩から上を見せて浮き、口にタバコをくわえてスパスパ吸っている。
「さぁ、どっちだ」
血まみれよりは… 汚濁かな…。
裸になって我慢して糞臭すさまじきな池につかると、青鬼がタバコを1本くれる。
やれ嬉しや地獄にホトケ、吸って一息入れてたら、青鬼立ち上がり、
「はい、休憩おしま〜い。全員潜って〜ェ」


さてと東京。
上野は国立西洋美術館
あまりの蒸し蒸しな空気に、白昼ながら中庭に誰もいない。
立ってるだけで汗が滲む。
ロダン作も、いっそ「我慢の人」という風情。
ま〜、ある意味で湿気と熱暑充満な環境は、"地獄門"を想起させられはするけど… 1本のシガレットはともあれ、帽子あるいはタオル1枚、欲しいよな〜。
(後で少しばかり雨になったから傘も1本…)

ここを世界遺産にしたいとの要望があるのだね。何本ものノボリが立ってた。
気持ちを…、判らないではないし、良き環境じゃあるけれど、「ふぅむ」とボクはちょっと考える。


と、それにしても… 「考える人」は世界中に何体あるんだろ?
我が岡山は倉敷にも、大原さんの美術館中庭にいて、何ぞ考えてるっぽい。
けどボクは、実は… この像にただの1度も"思案中"を見いだした事がない。
小学生の時、担任がジョークとして、
「ウンコが出ない人」
と、そう口にしたのが今も尾を引いてる。
これは下劣なので品の良い坊ちゃんたる小学生のボクは、改変し、「困ってる人」と翻案した。
途端にこのブロンズに色々なシチュエーションがあてはまるコトに気づいて、ボクはそのコトが嬉しくあった。
ロダンが拡大していく感じだった。
と云っても精々が、終電に乗り遅れたとか、失恋したとか、サイフ落としたとか、海水浴に来たのに海パン忘れてションボリとか、なぜ急に彼女は怒り出したんだろかとか…、喫煙場所がね〜な〜ガックリとかとか程度なんだけど、ずいぶん親近をおぼえはする。
アートと感じるよりも、困っ時のカタチに共振してしまう。
思えば、罪な担任だったワケだけど、名を変えて物体を捉え直して見るという… 初歩訓練を施してくれたような気もチラリ。
よって、世界のアチャコチャのミュージアムに鎮座してるのは、ボクには「困ってる人」だ。
いったい実際のところ、何体あるんだろ? ま〜、それを知らないからとて困るワケじゃないけど。