朝顔イコール夏休み ~オリエント急行殺人事件~

ちょいと前までは、表題の通りだったろうと思うのだ。
朝顔の花を見るのはラヂオ体操朝6時の夏休みのものであったハズなのだ。
だのに… ここ数年だかのうちに何やら朝顔の種の流通が変化して、今は、米国産だかの、遅咲きな朝顔にとって変わってるんだな。
なので、10月ももう終わろうという、朝の大気がヒンヤリしちゃった庭先で、青い花が多数咲いてるワケ。
流通している品種が同じで、ご町内のお庭事情も似通うているから、自ずと種も似通う店で買ったんだろう。
だから、お隣も、数軒先も、青いのが庭にある。
花は花で、それはそれでイイのだけども… 10月末に朝顔は… やはり似合わんな〜〜。
そう思うんだ。
ボクが子供の頃には、衣替えという単語はまだ炯々と活きていたから、10月のイッピになると、学生の衣装は夏モードから冬モードに変身したもんだ。
詰め襟を中心にしたいわゆる学生服がイッピに一気に登場するから、何だか景観そのものが、黒く、暗く、な感じに変じる感触が強くあって、なので、ボクは10月1日を好もしく思わなかったのだけども、今となっては、奇妙に懐かしい。
いわば、このオクト〜バーなイッピに、メリとハリが凝縮され、季節との合致を心身共々に促されるという仕掛けだったワケだけども、今は、それがない。
朝顔までもが… 10月末というのに花を開かせる。
その昔に泉谷しげるが造った"季節のない町にうまれ〜"な、色彩はあれども輝かないような、そんな面白みのない感じをおぼえる。
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今週の半分は、夏前に依頼されたものの、ジャズフェスだの何だのがあるからダメでごじゃる… と、逃げ廻ってた、ある仕事を、「やはりどうしても」と乞われて、
「ならば、しゃ〜ない。やりますぞ」
てなアンバイで4日ほどテッテ的に集中して、完了させた。
こういう集中の後は、小さな引き籠もり的な情動が働いて、部屋から外に出たくなくなる。
ボクはそれでアマゾンにDVDを求める。
実に、これを観るのは30年以上ぶりなのだ。
記憶に基づいて、こんな記事も書いてる。

1975年公開の「オリエント急行殺人事件」。
とにかく車内にいる人物の全てがメチャに素晴らしくって、しかもそれが当時のスター俳優達な上に、監督シドニー・ルメットの演出がすこぶるいい。
大好きな映画の1本だ。
とはいえ、30年以上前に観たきりなのだった。
これをば、ホントに久しぶりに観る気になったワケは、1つには閉じた空間たる列車内というシチュエーションが、プチな引き籠もり的心理な状況にピタリと合ってるような感触ゆえなのだった。
が。
観て、幾重にオドロイタ。
ボクはマチガイを犯してた。
記憶違いをやらかしてた。
そのさいたるものは、ポアロがチョコレットを吸わないコト…。

上記のリンク記事にあるような飲み物では実はなく、劇中の彼は緑色のソーダ(らしき)ものをストローで吸うのだ。
しかも、ボクの記憶の中では、彼は画面の左側にいて、食堂車のテーブルは右側にあったのだけど、実際はその逆なのだった。
我が記憶の中のポアロは短いストローで茶のような黒のような、明らかにチョコレットと思われるものを吸っていたのに、実際は、緑のソーダだ。
これでギャフンといわされた。
30年を越える時間の堆積の中で、いつのまにか原作の記述と映画の画像とが、ボクの中でミックスされ、石化していたようなのだ…。
そしてもう1つ。
車掌さん役(ピエールという名だ)を、ボクはず〜〜〜〜〜〜〜っと、サム・ニールが演じてたと思い込んでた。
「ジェラシック・パーク」や「オーメン」の、あの方。
ぐぁ〜、それは大間違い。
演じてたのはフランスの俳優のジャン・ピエール・カッセルなのだった。
良く似てるの…、サムさんに。
この事実にまたギャッフ〜〜ン。
というワケで、プチ引き籠もりは思わぬ収穫となったのだった。
さらに、特典映像で今回はじめて知ったのは、主役のポワロを演じるジャック・フィニーは、撮影当時、30代の半ばだったというコト。
特殊メーキャップで50代半ばのポワロの顔になってたという次第なのだ。
これに一番オドロイタ、ビックラこいた。
劇中に登場のどの役者さんよりも、実は彼は若いのだ(ジャクリーヌ・ビセットをのぞく)。
あじゃ〜」
てな感想を、30年オーバー越しで味わった、この… 喜びというかオドロキというか…。
でも一方で、この名作には小さな欠陥があるのにも気づいてしまった。
撮影された時代が、チョビリと画中に反映されていて、それが残念に思えるのだった。

何かというと、ホテルや駅舎内の大勢のエキストラの、男優の髪の毛だ。
70年代の長髪の時代が、そこに痕跡としてアリアリとあって、眼を背景に向けると、エキストラさんらの髪がいずれも、ことごとく、長すぎるんだ。
オリエント急行殺人事件」は1920年代が舞台だ。
1920年大正9年なのだけど、この当時、日本もヨーロッパも、男子の髪は短い。
わけても、襟の裾はキチリと刈り込まれてるのが、1920年代の流行りなのだった。
なのに、この映画ではエキストラ達の髪が1970年代なのだ…。
見ると、主役ポアロの襟足もずいぶん長い。
前側から見る、テッカテカのポマード固めの滑稽味はよく醸されているのだけど、後ろ頭の襟がダメ。シーンによっては襟足がスーツにかぶさってたりもする。
それは、いけない。ありえない。
ルメット監督は、全役者の髪を切らせ、1920年カッコウにさせるべきであった… と、今になって、「惜しいな、そこんところ」と… 気づかされるのだった。
時代を超えて魅了され続ける風格に、1点の染み… みたいな感じで、製作された時代が、指先についた塩粒みたいに、ちょっと違和な感触なのだった。
でも、ホントにお久しぶりの「オリエント急行殺人事件」。
堪能しました、な。
ウェンディー・ヒラー演じる、白塗りオバケみたいなドラゴミロコフ侯爵夫人は、永遠の強烈さで、ボクは大好きだな。
華麗な食堂車内で小さな2頭の飼い犬に食事させつつウェイターにグリーンサラダをオーダーするトコロなんかは、もう最高にイイのだ。

もう1つ。この映画でイングリッド・バーグマンがアカデミー助演賞に輝くワケだけど、それにボクはず〜〜っと違和を覚えてた。
でも、これまた特典映像のコメントに見出したコトだけど、
「あれだけの大スターが自身の華をテッテイして消し去った凄さ」
を監督ルメットがつぶやいている。
他の役者さん達は、その役に応じた華麗さを発揮しなきゃいけなかったけども、バーグマンの役はそうじゃなかった。
消え入る程に目立たない、ごくごく普通な婦人を、大スターが自身の華やぎを消去して演じる難しさ…。
「ぁああ、そうか〜…」
なんだか合点がいった。
解けなかった謎の解答がそこにあって、
「そういうことだったか」
実に37年が経過した今、2度うなずかされた。