サバ缶太平楽 part.2

仕事のアレがありコレがある上に、入院している89歳のマザーのオシメやら着替えやらを毎日病院に持っていかなきゃいけないから、1日がせわしい。
病院は近場じゃあるけど、それでも、何だかんだと行事をこなすと、出向いて戻ってくるまで3時間は費やす。
退院予定は1ヶ月先なので、それを思うと、はっきり、シンドさをおぼえもするけど、さりとて、この高齢なマザーが退院したらしたで、再転倒イコール再骨折の可能性を含め、入院前の生活にはもう戻れないであろうから、いっそ… このままず〜〜っと入院してくれていた方が楽だなんて〜、不謹慎もおぼえる。


で、入院病棟に日々出向くだけじゃツマンナイから、ついでだ。近場のスーパーなんぞにちょっと寄って… サバ缶を物色する。
あの店、この店、と出向くに、置いてるサバ缶も多少違う。
この1週間ほどで、病院からの半径3Km圏内の諸々なスーパーやストアたちを概ね制覇。
水煮が、どこも少ない。
まだブームが続いてるのか? あきらかに、売れているのだ…。

朝方に仕事を一段落させてのバランタイン(1番安いアレね)とサバの缶詰は、相変わらず、うまい…
水煮缶が、ムロンに1番、ファイネストにあう。
けども、サバ缶にもあれこれあって、まず眼をひくというか、気づくのは、パッケージの"まずさ"だろうな。


1缶300円を超えるような高額なサバ缶を、ボクはサバ缶と認めていないので、手元にあるのは、200円前後(最安値は98円)の、ま〜、それなりの代物、というコトになるけど、パッケージのデザインが悪いね、どれもこれも。手前の右から2番目は500円超えなれど、缶デザインは200円前後とチ〜ッとも変わらない。
1番にいけないのは、これ。
ニッスイのこいつ。

中身を美味しく、みせない。
むしろ、ひどくマズそうに見せる。
いや、そもそも、これはデザインという範疇に入れられないくらい… なもんだ。
社内のちょっと"絵"がかける人に案を出させて、そのまま使ってるような感触。
写真もまったくよろしくない。
鮮度が感じられない白っぽさには、旨味の増加どころか、むしろはっきり、マイナス。
が、顔つきの悪い魚は美味いというけど… ニッスイのこやつめは中身は美味い。
たいへん美味い。


左の、近頃セブン・イレブンが売り出してるヤツなどは、缶の意匠は優っても、まだこのニッスイの風味と滋味に、おいつけない。
総じて、"硬さ"があって、まだ味が幼いというか、いまだ缶詰としてこなれていないよう… 思える。
使っているサバも一回り小ぶりではあるし、OS風にいえば、まだバージョンが浅いので全体がギクシャクしている。



最近ちょっと気にいったのは、このパッケージで、この静岡産には写真がない。
味付け・味噌煮・水煮の3タイプをそれぞれ色分けで販売していらっしゃる。
水煮缶を銀色にしている辺り… サバのテーストを知っている感触がよく出て秀逸に、みえる。
サバ缶ワールドにおいて、これはいささか異色。
めだつ。
お味も悪くない。悪くないどころか、かなりイケてる。
けども、これとて、よく眺めてみると、せっかく大きく文字を躍らせているのに、
「美味しい」
などと、余計なコトが刷り込まれてる。
"あいこちゃん"なるワケのわからんイラストまで、入ってら。
サバ缶が美味いのは判ってるんだから、いらぬお節介。消してくれ、その一文とイラスト… なのだ。


その昔、音楽の世界では、LPレコードを買うさい、"ジャケ買い"というのがあって、ジャケットを見て、
「おっ、もしや…」
と、買っちゃって、結果、最高だったり最悪であったりと… 今のような情報過多な世界じゃなかったから、中身の論評など皆無な1枚に2000円〜2800円くらいを投資する、"楽しみ"があって、じっさいボクも、
「いいじゃ〜ん!」
とか、
「うっそ〜! こりゃないよっ」
天国と地獄のどっちかに運ばれるのを、チビリ愉しんでたもんだ…。


たとえば、見よ、このジャケット。
何かあるぞ… と、大いにくすぐられる。"絹の魚雷"というバンド名にもくすぐられる。
けども、針を落として聴いてみまするに… だ。
喪失の大波にアッという間にのまれちまって、
「なんじゃ〜、こりゃ〜」
天をあおぐという次第だったりしたワケだ。


また一方では、このジャケット。
アールデコな意匠の中に、14歳で娼婦を演じたジョディ・フォスターも登場の映画「ダウンタウン物語」(原題はBUGSY MALONE)のサントラ。
子供しか出てこない映画。
子供のみで1920年代のギャングの世界を描いた作品の、そのサントラ。
映画が日本でも上映される1年ほど前に、大阪のメロディハウスだっけか、輸入盤オンリーの小さな店で、
「おや?」
と、訝しんで買ったら、これが最高、最高峰。
いっときは、大好きなROXY MUSICのアルバムよりも聴き込むほどのお気に入りとなった1枚。


そういったパッケージのもたらすアレコレを思うに、ジャケットとしてのサバ缶の意匠は… 愉しみにダンコ欠けるのだ。
さりとて、パッケージで選ぶほどにボクは高雅じゃないんで、出向いた店の棚にサバ缶あらば、黙して買う。
むろん、こんなに貯めてしまうと消費が追いつかない。
まして、コレクションをはじめたワケじゃない。

などと書いてる場合じゃないぞ、ホントは。
明日の土曜は、オリエント美術館で講演だ。準備しなきゃ…。
と、慌てつつも、
「いったい、サバの水煮缶詰はいつ頃産まれたんだろ?」
疑問がわいてきた。
およそ130年ほど前の… 明治中期頃の岡山の職業一覧みたいな本『岡山鏡』(国会図書館に今はある)には、"ブリキ缶詰商"という名があるし、同時期の作家だったジュール・ヴェルヌの『十五少年漂流記』はそれよりも早い時期に書かれてるけど、たしかオイルサーデンっぽい缶詰が登場していたと思う。
ふむ…。
サバはどうなのよ…?
ヴェルヌのノーチラス号に、もしも漂流中に助けられたなら、ネモ船長に1番に聞かなきゃいけないな。
「船長。味噌煮はともあれ… 水煮缶は常備してますか?」
途端にジェームス・メイスンの顔をした船長の顔に炯々とした輝きがあらわれ、
「よくぞ聞いてくれた。実はノルウエーの冷暗な海の鯖をば、本艦じゃ缶詰に…」
などと返事があったら、我が愛しの『海底二万里』はさらに愉しくなるんだけどな〜。
(^_-)