雨の午後に『日本のいちばん長い日』

某日の午後、暑熱のさかり、遅刻しそうなので懸命に自転車駆けさせ、次いで、県立図書館の2階会議室めがけ階段を駆けあがったもんだから… その夜にはもう筋肉痛。
思えばこの夏、あまりに暑いもんだから自転車に乗ることを止しちゃって、運動らしきを身体にあたえてないから、大いにナマッちゃってるわけ。
岡山県立図書館の1階から2階を結ぶ階段は、妙にながい。
中折れが3つの連続は、なんだか3階まで登ったような錯覚すらおぼえる。たぶん事実、距離として3階相当の段数があるんだろう…。だって1階の天井はやたらに高い。
そこを駆け上がったのがヨロシクなかった。自転車競技のインターハイ出場選手として全校生徒集めての壮行会でもって学校から送り出されたはるか昔の高校時代が、ホントに"むかしむかし、あるところに…"な感じで、今の脆弱極まった筋肉痛な自分と何ァ〜にも一致しない。


10月の某高校でやることになった講義の打ち合わせ。
だから遅刻は大変とリキんだのが、いけなかった。何事もユトリをもって… とは常に思うけど… 思うだけのコトの方が多いのがイタイ。
と、それにしても、「学校とは弁当を食べる場所」くらいな思いしかアタマに浮かない怠惰な学生でしかなかったボクが、教壇で何を話せるか…。
やはり、弁当を持ち出すしかないような気がヒリヒリする。



某日、雨天の午後。
今度は… バスで出かけ、よう…、やっと、『日本のいちばん長い日』を観賞。
『ラスト・サムライ』の中村七之助の初々しい明治天皇も良かったが、本木雅弘昭和天皇も良い、な。


天皇を描くことがはばかられる日本では、かの岡本喜八でさえ彼の『日本のいちばん長い日』では後ろ姿をチラリで、それで精一杯だったのだけど、その状況が今は好転しているかといえば、そうでない。
またそこを描こうと勇気をふるう映画人も少ないのが実態だけれど、原田眞人監督はその辺りに… 密かに抵抗し続けている気配が垣間見える。



思えば、彼は『金融腐蝕列島 呪縛』でも、巻頭でもって昭和天皇マッカーサーの写真を挟み込み、また、その昭和天皇崩御したさいの新聞写真も挟み込んでいた。
いわば、そうやって天皇を"出演"させることによって、彼は昭和の、終戦から現在に至るまでの、根底にある何事か、キチリと精算されぬままにスタートした"戦後"に否応もなく発酵した「呪縛」を紡いでいらっしゃる。
『クライマーズ・ハイ』でもそこを見事にキャッチさせ、堤真一の新聞記者たちが紙面構成でもって、日航機事故(事件)と同時進行であった、初となる首相(中曽根)の靖国参拝問題にどう触れてどう紙面に出すかで喧々囂々、それを抜かりなく作品に入れて… 昭和をブリリアンカットしていらっしゃる。


突入せよ!「あさま山荘」事件』は直かに天皇云々はないけれど、時代の波動は『クライマーズ・ハイ』に見事にリンクしていて、記者のカタチを通して、やはり昭和の1時期を浮きぼってくれる。料亭内の一席にての大げんかで、その記者たちが10年ほど前「あさま山荘」を現場取材したさいの、全国紙記者との差としての屈辱を通して、歪びつなカタチを炙りだす。


こたびの『日本のいちばん長い日』を見終えてのボクの感想の1つは、原田眞人監督というフィルターを通しての、いわば『スターウォーズ』みたいな連作が、ここにある… かな。
時系列に並べると、
『日本のいちばん長い日』
『我が母の記』
突入せよ!「あさま山荘」事件
金融腐食列島 呪縛』
『クライマーズ・ハイ』
と、なる。
これをボクは勝手に、原田眞人の昭和サーガ・5部作と呼ぼう。



共通するのは、敗戦が引きずられている感覚。わけても、日本的組織というカタチとそこにいる個人という2つの柱だろう。
原田眞人という人の履歴を眺めると、この人は米国留学がながくアメリカ式映画を呼吸出来る数少ない人ではあるけど、一貫して組織に属するコトをせず、いわば会社人間であったコトがなく、逆説的にみればそこに彼の組織への憧憬もあるかしら? そう思ったりもするし、また同時に、それゆえ1度組まれてしまった組織の面倒さ、浮き上がるアクに辟易していると取れなくもない。当然に、そうであってもまた、そこに良さをも見いだして…。
いわば組織(会社であれ警察であれ)を描くことで日本のカタチを見よう、あるいは自身のカタチを、人のカタチをまさぐろうとしていると、そう思われる。


その『日本のいちばん長い日』。
未成年の女子高生にも竹槍をもたせて早朝より校庭で教練した、国民全部を巻き込んでの戦争を、卓上でコマを遊ぶようにして遂行した上級将校をたっぷりと見せた後、阿南陸将の割腹をあえて原田監督はまざまざと見せることで、死のリアイリティを突きつける。
だから、そのシーンは眼を覆う。
だけど、そこにこそリアルがある。
そのリアルを通し、生と死の端境にある責任の所在、国体の堅持とは戦争をしないこと等々、が伝わってくる。
なによりも命の尊さが。



ちなみに、劇団・燐光群の鴨川てんしと川中健次郎も出てる。
ここ数年ほぼ毎年、彼らが出る芝居に直かに接しているもんだから、つい親近する。
てんしの顔は昔の軍人に何だか似てる… と思ってたら、先日、さきにチャ〜ミーな某BARのママにそれを云われ、思わずニッタリ笑ってしまった。
よもや原田監督もそこを狙ったとは思わないけど、総じて良い役者さんのチョイス。そして総じて、役者の方々、この映画の撮影は大いに緊張したであろうとも察する。
密度が高く、緊張が持続し、観ている側にもそれは伝染し、結果、トイレに立つ人が多い。(だいたいが55歳過ぎた感じの方ね)


いや〜、しかし、山崎努
「聞こえませんな〜」と右耳に手をあてる仕草1つとっても、うまさ100パーセント。
左耳の背部に、2.26事件のさいの弾の貫通痕のメークもあって、人物造型もお見事。
『クライマーズ・ハイ』でのあの新聞社社主の演技とを噛み合わせると、この俳優のジギルとハイド両面が堪能出来る。いや〜まったく素晴らしい。
本来なら映画が終わるや立ち上がって拍手喝采もんだろうけど… 何しろほぼ3時間の映画。くわえて、始まるまでに否応もなく見せられる地域企業の広告の数々(なんとそれだけで10分近くもだぞ…)。
ガマンの限界、人のことは云えない… 最後のシーンを見ずでトイレに直行だった。
これではまるで『日本のいちばん長い映画』じゃないか…。も少し、イオンシネマ岡山は考えてほしいな〜、広告の量を。それから、空調の冷えすぎも。