クライシス オブ アメリカ

デンゼル・ワシントンが主役の『クライシス オブ アメリカ』という映画があって、この岡山市内では上映されず、倉敷に観に出向いたコトがあった、ヨ。
彼の映画を連れ立って観ようぜ… と懇意な極く極く内輪でもって、"デンゼル友の会"という冗談めいた会を結成してた頃だ。
その日は3人で出向いて…、というか会はその3人しかいないのだったけど、今は福山方面に住まってるメンバーのO嬢のシューズが、その日、なぜか表面の塗幕がポロポロと剥離し出して、観る前だか見終わった後にシューズを買い換えたのが、可笑しかった。
2004年の映画だから、も〜、だいぶんと経ったなァ。真夏ではなかったけど、やたらに暑い日だったと記憶する。



『クライシス オブ アメリカ』は大統領選にまつわる話で、基本としてSF仕立て。
しかしながら、候補者の母親(この人も議員だ)に扮したメリル・ストリーブが素晴らしく圧倒的で、事実、その年のゴールデングローブ賞やらアカデミー賞助演女優賞にノミネートされた。
我が息子を副大統領の候補として彼女は押し上げる。
しかし党内はハト派のベテラン議員が最有力候補となっている。
そこを彼女は卓越の言動でもって、塗り変えていく…。
完璧に劣勢だったのが、その勢いある言動と押しの強さでもってグイグイと情勢を覆す様子が、序盤に登場するのだけど、ともかく圧巻の演技。
一家言ある議員達が彼女の言葉に懐柔されていくシーンは、何度観ても、迫力に圧倒される。




なるほど、政治のパワーバランスにおける"人間力"というのはそういう次第かと思ったりもするワケだけど、今、観返すに、メリル・ストリーブにクリントン議員が想起されもする。
実のクリントン議員は、たぶんこの映画のメリルほどにダイナミックな人ではないと思える。
人を惹きつけ魅了するという点では、むしろ、かつて大統領だった夫のビルの方がそこは優る。
政務中も、実態は政治というよりも性事に熱中していたらしきで、事実、それが後に大問題ともなるけども… アレを乗り切っただけでも、ビル・クリントンはあるイミすごい。



これは当時の米国で平然と売られていたフィギュア。性質上、部分にボカシをかけたから判りにくい写真とは思うが、ホワイトハウスをバックに某が自分のナニをむき出して右手でニギッてるというポーズで、ネジを巻くと… その右手がモゾモゾいやらしく動くんだよ、このフィギュアは。
少なくとも米国にはこんなモノを堂々と売れるだけのフトコロのでかさがある…。


この映画はSFだ。
『クライシス オブ アメリカ』という邦題はいかにも日本的なベタなもの、オリジナルのタイトルは『MANCHURIAN CANDIDATE』。
MANCHURIANは満州の英語表記じゃなくって企業名。CANDIDATEは候補者。
マンシ(チ)ュリアンなる軍事産業を主体にした複合巨大企業(むろん架空だけど)をバックにつけた候補者というニュアンス。
オモシロイ映画だった。


ま〜、映画だから、これを"楽しむ"ことが出来る。
明日、いよいよ米国ではホンモノの大統領選挙な次第ながら、どちらの候補が撰ばれようと、明るい未来が約束されるワケはない。
トランプだなんて… ババ抜きじゃあるまいし… とも思える候補者が他を押しのけてのし上がる構図も、そう。たぶんに、幻想の上にのっかっての選挙戦…。しかしまた、たとえ幻想であっても、そこに乗る勇気も持ってる国民性をも、また感じないワケでもない。


お隣の韓国は、大統領とそのお友達の癒着関係が大問題になって、ヒッチャカメッチャカな様相。
一方で我が国は、なんだか… クール・ジャパン… 何事にも醒めた(冷めた)感じがあって、一向に政治的なお尻に火がつくようなアンバイにならないのが、とっても不思議。
甘利大臣の現金授受の問題やら沖縄での警官の土人発言、あるいは南スーダンというおよそ日本人には馴染みもない国でのオイル利権による部族衝突でしかない事態での『駆けつけ警護』なる意味不可解な自衛隊出動(現在350名)での経費の使い方(派遣された自衛隊員のためには現地食材を使うのではなく日本食が空輸され、総じれば、この"作戦"の年間費用は200億円を超える)などなどなど… おそらく隣国ほかならず他国では、国民総出で、
「そりゃ大問題じゃ! 」
と烈火が国会を炎上させたハズだけど、あるいは、つい近年、日本が契約を結んだ原子力発電所建設に対してベトナム政府そのものが見直しをこの10月に公表したり、あるいは台湾がこれまたつい最近になって原子力発電は止しましょうとの方針を打ち出すなどの、変革の意思が見えてくるのに対して… いまだ「先進国」たるを標榜してプライドのみ高らかに、内実に眼をつむってナニも変えようとしない、この国は、あるイミ、やはり凄みがあるな〜ぁとも思ったりする。



ともあれ、SF仕立てで突飛ながら、『クライシス オブ アメリカ』は観て損はしない。ど〜展開するのよ… とワクワクもさせられる映画だ。
副大統領候補となった我が息子に性的魅惑をおぼえて欲情の眼を輝かし、次の瞬間にはしっかり自制する… メリル・ストリーブの演技にとにかく圧倒されると、思うよ。
むろんながら、主役のデンゼル・ワシントンは申し分なく、イイ。
10年ほど前の映画ながら、どこか今という時代の歪んだ空気が照射されているような気配も感じられる。