創元社から案内が届いた翌々日、熊谷氏の新刊が届く。
『日本のブリキ玩具図鑑』
熊谷信夫著 創元社 6600円
ブリキ玩具の日本でのヒストリーから、各模型の詳細までをフルカラーで図解した素敵な本。レイアウトも素晴らしい。
この30年ほど、当方の不精ゆえまったく音信不通だったけど、こたびの出版は契機、久々に熊谷氏に連絡。
5年以上の歳月を費やして本書をまとめあげたという。
おびただしい史料や資料に眼を通し、コトコト煮込むようにして執筆を続けていたのだろうと、その労苦をしのぶ。
届いたばかりゆえ、まだ読み込んでるワケじゃ~ないけれど、パラパラめくってみるだけでも氏の熱気を感じ、
「ウフフ」
口元がゆるんだ。
30年越えの音沙汰ナシ状態が嘘のように消え、手元の、この重たい本に感慨す。
同書98〜99ページの50年代ブリキ・カーと当方所持の製品。掲載された黄色い屋根のシボレー・ベル・エアの色違いらしい……、のをこの本で再発見。
大阪在住だった頃、だから20代の頃だけど、しょっちゅう、熊谷氏ことノンさんとは行動を共にしていた。
今はもうないけども梅田のランドマークだった阪急ファイブに、彼は「あしたの箱」という雑貨店をおき、そこに陳列する古いブリキ玩具を求めて大阪近郊、兵庫や滋賀などの、田舎町に出かけては、古い玩具屋さんを巡ったもんだ。
当方は時にそれに同行し、玩具・模型のコトをチビリチビリと無自覚に学んでった……。
古くから玩具を扱う店の奥や倉庫には、たいがい売れ残った品があり、店を訪ねると、古い模型やらが残っていませんか、と尋ね聴いた。
そんな次第を重ねて、大正時代にさかのぼる玩具も“出土”したりした。
ブリキ製じゃないけど、大正のモボ・モガ時代に売られた石膏に彩色した「飾りオモチャ」。子供が買う代物じゃない。おそらく散髪屋とか若い人向けのディスプレー・トーイだったんだろう。
泳ぐゴム人形。劣化してゴムが固まってしまったけど、かつては足と手が動いて水に浮いた。戦争前のオモチャかしら……。
『少年サンデー』や『少年キング』が創刊された頃のブリキのパチンコ玩具。
ブリキ玩具時代の終わり頃の製品。東海道新幹線が開通した頃か? 部分にプラスチックが使われ……、つまんなくなっているけど、3つの乗り物が回転、ベルがけたたましく鳴り続ける。
いまやブリキ玩具といえば高価極まりないコレクターズ・アイテムだけど、70年代後半の頃までは、誰もそんなモノを探したり求めていなかったから、地方の玩具屋さんを尋ねると何らかのモノが残ってたんだ……。
しかも販売時の値段のままが大半ゆえ、極めて廉価に「お宝発掘」が出来たワケで、時にボルボの荷室がいっぱいギュ~ギュ~になるほどの”大発掘”もあった。本書244〜245ページにも、そのあたりの消息が書かれている。
動くブリキ製モノレール。部分。
ブリキの列車。真ん中のガス車両に単1電池をいれ、汽車部分のスイッチを倒すと、煙を吐きながら畳の上を駆けてく。
左は上記した50年代のモノ。右のホバークラフトは実際に宙に浮いて自走する。極薄に伸ばしたブリキ板をプレスしているんで軽く、中央のプロペラの回転で浮き上がる。けど方向は制御できないから、実に愉しい動きをする。
ノンさんはそれら発掘に飽き足らず、やがて大阪ブリキ玩具資料室を立ち上げ、1979年に『ブリキのオモチャ』を出版。
さらに、当時は既に休眠状態になっていたブリキ玩具製造工場の社主を訪ねて再起動を願い、自身で鉄人28号のブリキ玩具を復刻製造&販売したりもして、当時、雑誌「フォーカス」だかに載ったり、関西系のTVに出たりといそがしくなるのだけど、前後してこちらは帰岡してしまった。
ボクはボクで模型の仕事を岡山ではじめ、その関係もあって90年代中頃までは親交してたけど、こちらがペーパーモデルに特化した作業を行うようなって……、以後、交信を更新しないまま今に至ってたワケだ。
けどもだ……、我が手元に、当時の 8ミリのフィルム があるんだ。
およそ50分前後のフィルム。
当時〔1977〜78年頃)、大阪のどこかのスタジオを借り、ノンさん収集のブリキ玩具を一同にして当方が撮影したものなんだけど(『ブリキのオモチャ』出版準備で玩具をスチール撮影するさい、併せて同時に8ミリで撮ったよう記憶する)、いまとなっては、とても貴重な動画映像だと思う。
多くのブリキ玩具はゼンマイ仕掛けで部分が動いたり、何らかのアクションが組み込まれているんで、その動く様子を撮影したんだ。
中にはまったく驚くべき動作をする玩具もある。
ネジ巻タイプじゃなく、でっかい単1電池を胴体部分に収納する大型の旅客機があって、スイッチを入れるとまずタラップがおりて、客がのる。すると客室の窓がいっせいに変わってお客たちが座している絵にかわる。
ついでプロペラの1つが廻りだし、さらに次のプロペラ、さらに次プロペラ、4つのプロペラがブンブン回りだして、大きな音をたて、翼端燈が灯り、自走し出すんだから、た・ま・げ・た。
「うわっ! どうなってんだコリャ」
ブリキ玩具メーカーの創意工夫に感嘆絶句してクチがぽっかり空いちまった。
それらが造られた頃は安全玩具といった認識はまだ薄くってプロペラも金属だぞ。手を近寄せると痛いメ~にも遭うんだぞ。
そんな玩具の動作を文字で書いたって、なぁ~んもオモチロクないけど、実際に眺めると、ビックリだわさ。
走行するブリキ玩具はカメラのフレーム外にアッという間に逃げだし、壁にあたっても止まらず、そこでゼンマイが解けるまで足やら車輪やらをブンブンバタバタ動かしている。
収録中は玩具達のその動きにスタジオ内にいた皆な、弾けたように爆笑したりで……、フィルムにはその歓声も入ってる。
このフィルムのことを忘れていたワケでもないけど、ともあれおよそ45年(!)、我が宅で死蔵していたのはマチガイない。
が、およそ50分、各種のブリキ玩具たちがアクションを披露するんだから、これは貴重な映像記録と自負する。貴重極まりないと大袈裟に形容詞つけてもイイか。
それで一考。
こたびの出版を機会に、ノンさん=熊谷氏に寄贈するコトにした。
8ミリフィルムの長尺を4K画質的なデジタルに置き換えるには相当な経費がかかると思うし、フィルムの劣化も気になるけど、ともあれ、熊谷氏の手元にこれはあった方がよかろう。再編集し、Blu-ray化して披露するコトだって可能かも……。
そう思い、明日か明後日、氏の元に送るべく準備しようと、出来たてホヤホヤの本をめくりつつ思うのでありんした。