ウォルター・シラーさんが亡くなった。

享年84歳。
日本ではウォルターともウォーリーとも書かれるが、ここではシラーさんと表記する。
シラーさんといっても多くの方には馴染みなかろうけど、宇宙飛行士だ。
映画「ライトスタッフ」をご覧になれば、60年代はじめの米国人にとって期待と羨望を一身に受けて選別された7人の"ライトスタッフ"の、その1人であるコトが判ると、思う。
シラーさんは マーキュリー宇宙船(シグマ7)で1962年の10月、宇宙に出た。米国人として宇宙に出た5番目の人だ。
映画にこそなってはいないけど、ジェミニ計画ではジェミニ-6で飛行。アポロ計画のための実証実験として宇宙船とのドッキングもやっている。先行して打ち上げられて既に宇宙空間に1週間ばかり滞在しているジェミニ-7とのランデブー&ドッキングという難事業。この時、ジェミニ-7に搭乗していた1人がジム・ラベルさんだった。
NHKでも放映された連続ドラマ「フロム・ジ・アース・トゥ・ザ・ムーン」の第3話は、このシラーさんが主人公だった。
アポロ7号の船長がシラーさんだ。アポロ7号はサターンロケットによる最初の有人飛行実証というのが目的なんで、ムロン月にゃ行ってない。前記の通り、アポロ1号の事故後の最初のフライトでもあり、緊張はもの凄いものがあったろうと想像出来る。
宇宙空間に出たアポロ7号は切り離した第2段ロケットを月着陸船に見立ててランデブー実験も行なってる。
当然ながら、こういった実証なくしてはアポロ11号の快挙はないワケだ。ステップを踏むというのはこういうコトなんだね。そのステップの1つ1つの積み重ねでもってしか人は大きなコトは出来ないんだね。


「フロム・ジ・アース・トゥ・ザ・ムーン」の原作となった「人類・月に立つ」はとても素晴らしい本だったけど、なぜかアポロ7号の記述が薄い。そこが残念だけども、映画では思いっきり7号が描かれている。ステップの一つがまざまざと垣間見られて、とてもイイ。
ちなみに、マーキュリー計画ジェミニ計画アポロ計画と続く3つの大がかりなプロジェクトの全てで大気圏外に出た唯一の人物が、このシラーさんだ。
NASAのホームページではトップページにて大きく、シラーさんの死を悼み、その業績を紹介してる。
当然ながら、ボクは本物のシラーさんをシラ〜んワケだけど、上記の映画の中で、あるいは、幾つかの本の記述の中で、シラーさんのコトを読み、コトを見て・・ ちょっとだけその人の輪郭を自分なりのカタチとして構築しつつはあったのだけど・・ 訃報を聞いてしまった・・。
映画の中でボクが知りえるシラーさんは超絶的にイタズラ好きで、超絶的にシビアで、また一方で超絶的な物静かで、慎重と大胆が拮抗してせめぎあっているといった、一筋縄ではくくれもしない複雑な多面ある人という印象を受ける。
その人が老衰でなくなったというニュースに悲哀をおぼえ、波紋めいた悲痛のヒダがボクの脳内のどこかで広がりつつはあるけれど、彼もまたボクのヒーローの1人であったコトには違いない。「フロム・ジ・アース・トゥ・ザ・ムーン」の中でシラーさんを演じた役者さんマーク・ハーモンがカッコ良かったというのも一因ながら、アポロ1号の悲惨な事故の後の最初のアポロのフライトという重圧中の重圧に耐えて無事に任務を遂行したホンモノのシラーさんにはうたれるような思いがある。
だからこそ、ヒーローの1人なのだ。亡くなった今も、今後も。顔カタチが似ているという意味では「ライトスタッフ」でシラー役を演じたランス・ヘンリクセンさんがいの一番とも思えるが、濃く印象に残るという点ではマーク・ハモンさんがイイ感じだった。


「フロム・ジ・アース・トゥ・ザ・ムーン」の第3話は、アポロCMへの乗り込みとその手順が実にうまく描かれていて、秀逸でちょっと溜息が出る。ペーパーモデル製作における資料としても一級で、CM内の様相がかなり出て来る。ゆえにボクはそのシーンを何度も見た。当然に一つのカットで一切が判明する次第もなく、何カットかの映像を見てCM内のサイズやら機器配置といった子細をアタマの中に構築していくというワケなのだけど、モデラーにとってワクワクする時間ではあるね、こういうのは・・。
基本としてモデラーというのは模型そのものに興味があるんじゃなく、それが意味するトコロの本物を手中の模型にダブらせて、いわば立体物を通して本物を幻視するという方便を好む。だから、模型を作りつつも、本物はあ〜だった・こ〜だったと縮尺モデルの渦中に等身大の何事かを常にダブらせてるワケだ。
この場合もご多分にもれず。そういった幻視をボクは行なっちゃってる(苦笑)。
まず、ウォルター・シラー船長がCMに乗り込み、自力で左側のシートに移動する。その後を追って2人の作業員が船内に乗り込んでシラーさんの着座を補助する。各種センサーやらやらを彼に装着したり、シートベルトでの固定を補助するワケだ。
アポロの3つの座席は6本の伸縮する支柱によって支えられ、いわば宙に浮いている格好ゆえに、作業員が椅子の前後に陣取れるんだね。次いで右側の椅子に座るドン・アイゼルさんが搭乗して同様な作業を行い、最後にウォルト・カニングハムさんが乗り込んでまた一連の作業が行なわれる。3人の飛行士はいわばアポロCMと一体化するワケだ。ちなみに椅子は水平位置ではなく、傾斜して取り付けられている。打ち上げ時にはアポロは天上を向いているからイイが、これが水平にでもなれば、この椅子から人は滑り落ちちゃう・・ くらい傾斜してる。CMの構造上、そうでなくてはいけないというトコロまで計算されてのコトなんだろうけど、車であれ船であれ電車であれ、進行方向に向けてシートは水平でしょう・・ というのが常識なれど、そこいらの概念が取っ払われてるのもアポロの特性だ。
椅子への固定作業を受けつつ同時に3人の飛行士はインカムで管制官と連携し、機器の点検に取りかかる。その辺りの描写が「フロム・ジ・アース・トゥ・ザ・ムーン」は実にうまい。たかが人が宇宙船に乗り込むだけじゃんかのシーンながら、そこに大きなドラマを見いだしてボクなんぞは・・ ちょっと昂奮スル。ボクの自動車とはえらい違いだな・・ と手近な対象を持ち出し・・ ワクワクする。
でもってテレビ画面から今度は作りつつある模型に眼を転じ、そういった一連の作業が行なわれたであろう実際を、模型の中に見いだして、いわば悦に行ってる次第で・・ こういう話はなかなか女性には出来ない。それのドコがオモロイの・・ と云われかねないので、だからボクはそういった話は、まず、しない。
モデラーの孤独はこういったトコロから兆しあがるんだ。