ジ・エンド

大学生の頃、どんな死に方を好むとの愚問に、「隕石にあたって死ぬのがよいな」と応え、そんな亡くなり方をした人は古今東西ないんだから、不遇な死去としてコレは全世界に知られるでしょ〜、と笑いつつ理由も述べたんだけど、後年、島根を訪ね、後に美保関隕石命名される隕石とその落下痕をみるに至って、思いは萎えちゃった。
民家を直撃した隕石である。いま、これは壊れた家屋の一部と共に博物館(メテオプラザ)内に展示されているのだが、隕石に当たって死ぬが良いなどという甘やかな願望は、壊れた家の梁を見るや瞬時に吹っ飛んでしまうのだった。
ほぼ垂直に落下した微小(25センチくらいの長さで重さは6キロ)隕石は、屋根瓦を抜け、40センチを越える天井の図太い梁を裂いて貫通し、二階から一階の床やタタミも通過して地面深くに潜って、やっととどまった。博物館にその真っ二つに砕けて裂けた梁が置かれていて、どんな惨事が夜中の三時に起きたのか? とジョークが通じぬ衝撃の凄さがまざまざと判ってくる。この家屋の住人は隣室だかにいて難を逃れたものの、直撃してたら・・ と思うと心底ゾッとする。その夜の美保関界隈は雷混じりの雨で、当家の住人も落下直後は雷が近隣に落ちたと思ったらしい。よもや宇宙から隕石が落下したとは、そりゃ、まったく想定もしちゃいないワ。もし、あれで民家の方が亡くなってでもいれば、"美保関隕石まんじゅう"なんぞは売られていないハズで、それを思うに、前言撤回、「隕石にあたって死ぬのはイヤだ」なのである。
数ヶ月前、NHKの、再放送だかで、隕石衝突による地球への影響といった内容の番組を見た。琵琶湖くらいの隕石が太平洋に落下した場合を想定して番組は作られていたが、見るに、あ〜、え〜、い〜、も〜、コトバを無くすホドにどえらいコトになるのであった。あれよあれよと云わぬウチ、災禍は広がって、早い話、地球はほぼ火だるまと化し壊滅するのである。
実際はとてつもない速度ながら、落下物がでかいものだから、人の眼にはまるでスローモーションを見るような按配でそれは大気圏内を降りてくる。
NHKの想定によれば、それは日本から1500キロばかり離れた太平洋に落下する。これは岡山市内からでも見るコトが出来る。円く黒い暗鬱な影がゆっくりゆっくりと降りてきて、やがて、その下方から上方に向けてそれは真っ赤な色合いになっていく。大気圏に突入したワケだ。
この時点でとんでもない音と衝撃が地球を襲う・・。NHK映像に文章的表現を加味していえば、次のようになる。
衝撃波に1500キロ彼方の岡山でもガラスというガラスがいっせいに割れる。多くの人の鼓膜が破かれる。
この衝撃(ソニックブーム)は二度来る。最初のは隕石の前面が大気に触れて生じ、もう一つは隕石後方が大気圏に入った時に、来る。
衝突。
1分と経たぬ内に大きな地震がくる。
なにしろ琵琶湖よりでかい物体が時速7万2千キロ(ちなみにマッハ1は時速1255キロだ)という法外な速度で衝突するのだ。
海の底にそれが達するのは、ほぼ瞬時だ。途端、津波が生じる。およそ厚さ4キロの海水のそれと同時に、海の底の地殻そのものが砕けて津波になる。厚さ10キロの地面が全方位に向けて津波になる。その津波に併せ、一片が1キロを越える地面の破片が舞い上がり、それはいったん大気圏外にまで飛ばされ、次いで、無数の隕石となって地表に降りそそがれる。と、ここまでで既に日本も朝鮮半島も完璧に破壊されつくされる。津波にのまれるといった程度ではなく、地表は津波の一部と化して、ほぼ数秒で姿も形もがなくなってしまう。運がよければ数秒は、その惨事を眼にするコトは出来るだろうけど・・ それまでだ。
でも地球的規模でいえば災いのピークはこれからだそうだ。
隕石衝突と同時に、ほぼその隕石の10倍に等しい範囲で岩石が蒸気となる。1千億メガトン(人類が作り出した最強で最狂な爆弾はソ連が開発した核爆弾ツァーリ・ボンバだが、これですら50メガトンです)という膨大な超高温の蒸気と化した岩石が巨大な火球となる。ついでその形が崩れて全方位に這うように地表を覆っていく。衝突3時間後にはこの岩石蒸気でヒマラヤの万年雪は瞬時に溶け、水になる前にそれも蒸発する。1日後には衝突点の真裏のアマゾン界隈も4000度の高温岩石蒸気にくるまれる。地球は灼熱化し、海は沸騰して消失し、見る見る内に塩で真っ白になるが、それもすぐ蒸発し、真っ赤に灼熱した地面がドロドロドロ・・ 。
ドロドロドロ・・  と、それから1年くらい地球は燃え続ける。
岡山県のスローガンは『燃える岡山』だけど、その岡山を含め、ほぼ半日で地球は文字通りの燃える地球になっちまうのをNHKはじっくりと丁寧に卓越のCG映像で見せてくれたのであった。その親切な衝撃に、ボクはただただアジャパ〜〜・・ えらいコトになるんやな〜、地域的災害にとどまらんのやな〜、とコトバを呑むしかないのだった。
琵琶湖くらいの隕石との衝突など、めったやたらとある話じゃないけれど、過去、何度か、人類以前に実際に衝突しちゃってるコトは確かなワケで、いつか、いずれ・・ また地球はその悲痛に遭遇するのだなと確信もする。自動車の事故より飛行機の事故より確率ははるかに低いのだろうけれど、また、いずれ・・ なのであろうなと思ってなくてはいけないのであろう。
隕石衝突は悲劇的情景として映画になりやすいのか10本の指じゃ治まらないホドたくさん作られている。代表例を挙げると、1951年には「地球最後の日」が作られている。ここで登場のロケットがなかなかカッコいい。選ばれた人と選ばれた動物がこのロケットで脱出するワケで、ノアの箱船だと思えばいい。
その10年後に東宝は「妖星ゴラス」でこのテーマを扱った。南極だか北極だかにスーパー巨大なロケット装置を作り、この大噴射でもって、いわば地球をロケットにして難を逃れるという壮大さだ。でも、この前年に東宝は名作「モスラ」を創出していて、それはとってもイイのだけど、このゴラスにまで怪獣を出しちゃったもんだから、せっかくのテーマの深刻も薄れがちで、ダメ映画になってしまった。余談だが、この映画で、あの「ウルトラマン」の科学特捜隊ジェット機・ビートルがデビューする。登場したもののさっぱり意味のないトドとナメクジを合わせたような怪獣は「ウルトラQ」に流用され、そこでやっとチョットだけ人気を得る。名を火星怪獣ナメゴン、という。
70年代には「メテオ」が米国で作られ、英国ではTVシリーズ「スペース1999」が作られた。これは月が地球を離れてとんでもないコトになっちゃったのをドラマ化したもので隕石飛来という図式ではないけれど、バリエーションの一つと考えられはする。もっとも、途中で製作の目的が判らなくなったか、ただのスペースモンスターVSヒューマンといった図式の平坦なドラマになりさがってガッカリものではあった。
90年代末には「アルマゲドン」、「ディープインパクト」と、同じテーマ、同じ内容の映画が続いて公開されもした。「アルマゲドン」は、巻頭で松田聖子が数秒出て、数秒後には隕石で死んじゃうのは可笑しかったけど、両者ともごくごく一部の犠牲的ヒーローがいて地球は救われるという甘い部分があって、作品としてチッとも面白くない。
ミッション・トゥ・マーズ」という映画は火星におけるその災禍を物語の基底部に描いていて、秀逸というワケでもなく、見終わった後に大きな感動があるというワケでもない、いわば小品に属する映画ではあったけど、隕石のもたらす、その惨状などよりは、火星に向けての宇宙船にボクの興味は大いに魅かれるのであった。アポロCMとスペースシャトルを合体混合させ、その背後に長大なイオン・エンジンをくっつけた、カッコいいのか悪いのか判然としない形状をしていて、その善し悪しを見極める前に映画そのものが終わってしまうので、仕方ない、 DVDが発売されると買い求め、再確認の末にヤッパ・・ カッコよくはね〜〜な、の感想を持った次第なんだけど、奇妙に印象に残るカタチではあった。主演のゲィリー・シニーズが映画「アポロ13」で風疹の疑いありでフライト直前に飛行計画から外されるケン・マッティングレーを演じていて、この映画「ミッション・トゥ・マーズ」でやっと宇宙へ出るというのもなにやら可笑しくもある。そんな次第もあって、アンガイと好きな映画であったりもする。好きか嫌いかというのは映画の出来不出来とは関係ないのは、皆さん、ご承知の通りでしょ。不出来でも好きなものは好きなのだ。
閑話休題
昨年だかに、ブッシュ(息子の方)政権が凋落する人気回復の一つの方策として、月及び火星への有人飛行を目論むと発表し、いかんせん、大きなニュースにはならずでブッシュ氏としてはチェッ・・ ってなもんだったろうけど、大統領の発令ゆえ、さっそくに、それなりの予算がついたコトは事実で、NASAでは着々とその有人飛行に向けての準備を開始しているようである。既に発表された、その宇宙船の大まかな形状は意外やアポロのままであったので、いささか拍子抜けの気分もあるけれど、35年以上も経過した今もアポロ・プロジェクトが踏襲されていると思うと、ちょっと嬉しくもある。ボクがまだ存命のうちに、月面探査がなされるのか火星へのはじめての人類到達が成されるのか判らないけど、また人類が宇宙へ出ていくコトは喜ばしい。スペース・シャトルには"冒険"という感じがないでしょ。タイルは剥がれるワ、機体はきしむワで、ホントのところはかなり危なっかしいのだけどもアポロ計画のような"冒険"な感触はないよね。そこがイカン・・ (o^_^o) 
「2001年・宇宙の旅」で、宇宙空間を航行するディスカバリー号のかなり近いトコロを小さな隕石(正しくは小惑星だ)が通過するシーンをおぼえてますか?  
まったくの無音。あれは恐かった・・ あれが衝突すると、ジ・エンドだ。そういうトコロでの "冒険"をキューブリックは実にさりげなく描いてた。
大隕石の地球衝突なんてのは冒険じゃないけれど、ね。つくづく・・ NHKは凄いものを放映したなぁと感心する。50代のおっちゃんたるボクが衝撃を受けたんだから、感性のいい初々しい少年がコレを見たら、うなされるんじゃないか、将来はひどく手強いペシミストになるんじゃないかとチョット心配する。
でも少年よ、安心せ〜。キミが生きている間にそんなどでかい隕石が落下する可能性はほぼ皆無だい。むしろ、より緩和な、ゆるやかな自殺的死滅に向かって人類は歩んでいるんだぞ・・ 自ら招いた温暖化で・・ ってコトでとりあえずは安心しときなさい。