野田さん

野田昌宏さんとは、もうずいぶんと前に、彼がまだ本名の宏一郎さんであった頃に交流があった。
その頃はボクはまだ蒼い中学生だったのだけど、彼が発信する「SFはビジュアルだよ」の思いに共振して、彼が紹介する米国のパルプ・マガジンの、その数々の表紙絵にいたく刺激を受けたものだった。
それらの、華やかな色彩に満ちた奇天烈な表紙絵の数々を、より広く愉しんでもらおうと、当時としては唯一の複製的手段のカラースライドにして、野田さんは忙しい仕事の合間を縫っては、地方に住まう少年に送ってくれていたのだ。
ボクの手元には今も、そのスライドがおよそ300枚ばかり、ある。
空想好きな少年の心の中にそれら異界を描いた表紙絵の数々は、遠方への飛翔として充分な素晴らしいもの達であった。
ボクは彼がプロデュースしたTV番組「ひらけ!ぽんきっき」を一度たりとも見たコトがないけれど、遠い昔、野田さんが月々の、それも遅れ気味の仕送りのようにして、カラースライドを送ってくれたコトで、ボクという今のカタチが出来ちゃったという確信だけはある。それはもう確固に、強毅に。
未知への道案内をしてくださったおかげで、ボクの血の中に、肉の中に、「SFはビジュアル」が定着して根をおろしている。そのビジュアルの中に含有されるユーモアの楽しみ方をも。
訃報に接し、ボクは衝撃を受ける。
7日の夜、DJの早田和泰氏と呑み、東映動画の「シンドバッドの航海」の挿入歌がいかに優れているかをボクが力説しているさなかに、ふと、
「あ、そうだ! 野田さんがなくなりましたね」
と、早田氏が教えてくれたのだ。
もう道先を案内くださる人がいない。
ボクは自分で歩まなくちゃいけない。
その事をヒシヒシ思いつつ、早田氏と酒をすすった。
ありがとう。野田さん。