アリス イン ワンダーランド

CD以前のレコード時代にはレコード屋の棚に向かい、1枚1枚次々にジャケットを見て廻るという愉しみがあって、時に、それで、
「おや?」
と、思ったりして… レジに持ってって購入。
家に帰って針をおとして、
「ぁあ〜、外れだ〜」
てなガッカリを味わったりもしたもんだった…。
今のようにネットで検索なんてコトがない情報を得る手段がない時代だから、とくに輸入盤のレコードでは、そんなガッカリがけっこうあったもんだ。
さてと。
ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」。
実は意外や、かねがね、これが好きなのだった。
少女に興味があるワケではなく、なんだか法外なメチャでハチャな夢物語という一点に濃く惹かれ、とりわけその昔、デイズニーのアニメーションでもって、あのトランプの平面な兵隊達の動きやら仕草にいたく感心しちゃって、それゆえか、キャロルのこの小説を下敷きにした映画は、あんがい観ているのだった。
で、2010年のティム・バートン監督の「アリス イン ワンダーランド」。
映画館で観ていなかったんでDVDを買ったものの、1年以上放置してた。
なぜなら、このDVDのジャケットが何やら視聴を拒むような… 安上がりな感じがして、上記の「ジャケ買い」とは反対に、買ったものの観る気がおきなかったのだった。


もう1つは、同じ監督、同じ出演者の「チャーリーとチョコレート工場」があまり面白くなくって、これはジーン・ワイルダー主演の「ウイリー・ワンカと夢のチョコレート工場」のリメーク版で、同作が大好きなボクとしては期待をホット・チョコなみに熱くして劇場に出向いたものの…、 
「ガッカリだ〜!」
と、叫んでしまったがゆえに、あまり期待しちゃイカンぞと自身を戒め、おまけにジャケットもよろしくないんで… 放っておいたという次第なのだった。
でも、今日。
雨の月曜に、観ちゃったのだ。
なんだか覚悟を決め、
「どうせ、ダメでしょ」
と、タカをくくりハラをくくりで、観ちゃったのだ。
と〜ころが!
「おやっ、ま〜!!」
なのだった。
ジャケットのチープさに較べて、中身はアンコぎっしり、肉厚にして豊潤にして旨味の層が多重にあって、気がつくと身を乗り出して画面に集中しちゃってたんだから… オモチロイ。
チャーリーとチョコレート工場」が「ウイリー・ワンカと夢のチョコレート工場」に描写されたイマジネーションを超えてなかったから、ティム・バートンも限界なんかしら? と訝しんだもんだったけど、おっとどっこい。
そうでなかった。
想像力健在。洞察力壮健。
当然に優秀なスタッフが多数いての1本の映画への昇華なんだけども、日本映画の貧相な状況と較べると、やはり、とてつもないものを突きつけられたみたいな衝撃をおぼえて、嫉妬めいた羨望すらおぼえるのだった。
羨ましい、というより、その想像力の在処、力量と深みに、溜息が出るのだった。
「文化の深化の度合いがまったく違うんだな〜」
と、呆然とさせられるのだった。

ただ奇をてらってメチャな絵を量産しているのではなくって、まずもって実はちゃんと人間の成長を、この映画の場合は19歳のアリスの成長を描いていて、そこがキチリと芯になっていてのハチャでメチャなのだから、厚さが違うのだった。
頭がでっかい赤の女王がすごくイイ。
高い技術力なくしてこのでっかい頭の女王は描けないし、その一点だけでもスゲ〜なワケだけども、演じてる女優が圧倒的にイイ。
むろん、知る人ぞ知るティム・バートンとながく同棲してる人ではあるけれど、去年だかの傑作「英国王のスピーチ」で国王の后を演じた人とは、とても同じ人にみえないトコロがすごい。
ジャケットでは、ジョニー・デップが主演だと高らかに書いてあるけれど、映像の中の彼は、むしろ、ジョニー・デップという存在をほぼ完全に消し去って、かの原作にも登場の"きちがい帽子屋"になりきっているのも、すごい。
その上で、ただのマッドな帽子屋じゃなくって、深い憂愁を実に巧みに表情に出しているから、えらい。
なので… 観てもらうしか、ない。
ラスト辺りのどでかい恐竜との戦いは、その昔の「ドラゴンスレーヤー」より迫力で劣るけども、総じて、これは傑作だとボクは思う。

ちなみに海外でのDVDのジャケットはこんなのだ。(どこの国のバージョンかは判らんけど)
えらく印象が違う。
このジャケットならば、ボクは買ってスグに観たかもしんない…。
ともあれともあれ、たかが1本の映画を観たに過ぎないのではあるけれども、否応もなく、気づかさせられる。
想像力と洞察力のはばたきようが違う。それを組み上げるパワーが違う。

数週間前だったか、関西の経済界の重鎮さん達が一堂に会して会議をし、
「どうやったらスティーブン・ジョブスのような人材を育成できるか」
と、話し合ったそうなのだが… この議題の時点で既にダメじゃんか、な感想をボクは持ったもんだ。
一向に、はばたけていないのだ。
この重鎮方には、たとえば黒澤明の「隠し砦の三悪人」と、樋口真嗣の同名リメーク作品を見せてあげたノチに感想を聞いてみたい…。
リメーク版に、何が激しく欠落しているかに気づいてもらいたい、と思う。日本から何が抜け落ちたかを知る手がかりがあると、ボクには思える。
最後まで、このリメーク作品を見続けられるかという… 難題もあるけれど。