3月の朝


ワケあって、髪の毛を脱色して、田舎のモンキーみたいな妙なアンバイなミテクレになって数日が経つ。
けども、同居して看病というかお世話しちゃってる87歳の我が母は、息子の頭髪(ほとんどないのだけど)の変容に気づかない。
食事を運び、茶を入れ替え、テレビのスイッチを入れ、暖房具の状況をみやったりと、かいがいしく彼女のすぐそばで立ち働いても、変容に気づかない。
「今日はいい天気になりそ〜な」
カーテンを開けてやるとたちまちにそう反応して、窓の外に見える小さいビニールハウスに眼をはせて、
「イチゴの苗を、見にゃいけんで」
(昨年末頃に3つほど買ってきて、植え、今は冬ごもりのビニールに覆われているのが母の部屋から見えてるワケ)
云いつつ、こちらにも眼は向けるのではあるけれど、黒から金というか黄色っぽくなってる息子の髪には気づかない。
ボケてるワケでなく、ただ、変化に気づいていないだけの話ながら… 人のコト、あんまり見てないな〜、この人は… との感想が浮く。
顧みて、自分にも、きっと、そんなトコロは多々あるんだろう… な。

3月というのは、いわゆる"文化活動"が闊達になる月、だ。
1月、2月と、休眠したようなアンバイだったのが微かな陽気と共にいっせいに地面から芽吹くような感じで、じっさい、今月は週に2つくらいな勢いで、ライブなり芝居なり、イベントごとが我が周辺で林立してる。
諸々、案内をもらっているものの… 当然に全部はいけない。
「えっ! なんで来てくれないの?!」
と、一昨日も知人からメールがあった。
申し訳ない… んだけど、シャ〜ないじゃな〜いか〜い。
こちらも身一つ。
おまけに、今年はちょっと集中しなきゃいけないタイプの仕事を幾つか抱えてしまって、自身のコトで既にかなりの手一杯な感じ満載にゃのだ。
くわえて、それがうまく進行していないから、余計… 外に出づらいという今日この頃なのだ。
想定より作業量が膨大で、かつ、かなりの"創作"をしなきゃいけないから、考え込んでる時間が多い。
「こ〜してみよ〜」
と決めて図化し、プリントし、切って貼って… 
「ダメじゃん」
も一度、トライする… を繰り返してるから時間がトントコ費やされる。


ボクは、冬の寒さは好まないけども、夜が長いのは好きだ。
冬の最盛期は朝の7時でもまだほの暗いって感じでしょ。
そこが好き。
でも3月ともなれば、朝の5時過ぎにはもうホンワリ明るくなっちまう。
これが、好かん。
だから、早朝5時前あたりから、気持ちがどこかさえない、の…。
夜の闇というのは、"まだイケるぞ、これからだぞ〜っ"てな、いずれは明けちゃうけども、そこに至るまでは、"闇に紛れての停滞感"を感じるから、昔から、夜という環境は好きなんだ。
"明けるコトへの期待"とは裏腹に、"明けてくれるな…"の思いがこの場合強くって… それが作業のバネになる。
それゆえに、外が明るくなってくると… 何やら焦燥をおぼえ、
「ハ〜〜」
と溜息をこぼす。
今日ただちに締め切りじゃないけども、なんだか仕事(作業だな)を急かされるような気分になるんだな、窓際が明るくなってくると…。

とはいえ終日お仕事に没頭してるワケじゃない。
浮気するように本をめくったり、DVDを観たりもする。
この前のロシアでの小天体落下以後、『隕石がらみで何やら懐かしいもの』をテーマにかかげ、観たり読んだりしてる。
昭和30年代の前半あたりの「鉄腕アトム」には、隕石やら宇宙からやってくるモノを主題にしたものがけっこうあって、それがとてもイイ。
絵の密度が濃く、話の凝縮度も高く、久しぶりに読んでみたけど、
「素晴らしい!」
の一語につきる。
宇宙モノではないけれど、国木田独歩の引用にはじまる「赤いネコ」は尋常でない傑作におもえる。


隕石ものの映画としては…、
「金星ロケット発進す」
世界侵略:ロサンゼルス決戦
この2本立て。
「金星…」は出だしでいきなりツングース隕石の話なんだから、実にタイムリーというか、うってつけというか…。
女優がいいね、昔の映画は。
色っぽさというか、艶というか、厚みというか、なんか今時の女優とは違う香りがあって、ボクは好き。
小学生の時だかにテレビ放映で「金星…」を観て、主演の谷洋子さんの半裸姿にドギリとしたもんだけど、一瞬の裸シーンだけど、イイね〜、今観ても。
およそ40年ぶりに「金星…」を観たワケだけど、ブルース・ウィルスの隕石ものなんかよりよっぽどイイや。
「宇宙水爆戦」をホントは観たかったけど、なぜか手元にない…。
誰ぞに貸したか?
近頃、このあたりの物品の出入りがトント自分で掌握出来てなくって、つい数日前、大学を卒業して京都からプラっと戻ってきた弟の子供が、
「おじちゃんに借りていた本、返します」
と、差し出したのが、ヴェルヌの『20世紀のパリ』だ。
「なんじゃ、おまえに貸してたんか〜」
あらためてビックラこいたりしてるワケ。