煮えたジャガイモ 〜おでん篇〜

おでんは誰がいつ"発明"したのだろ?
発明者には感謝しなくちゃいけない。
どの辺りに感謝するかといえば、辛子を使いはじめたトコロにだね。
和辛子を最初に、練り物やコンニャクや厚揚げに使った人。
この人を誉めて讃えなきゃいかん。
いかんけれど、いつの、どこの人なのか皆目わからん。
おでんの類似は既に室町時代にあったというけど、カラシはないでしょ。
ネーミングとしての定着は、江戸時代に、煮込んだ"田楽"イコールおでん、というようになったそうだけども、いつだ、和辛子の登場は?
マチガイなくゼッタイに最初の1歩を踏み込んだ人がかつて… いたはずなんだけどね。
あの鼻にぬけるツンとした辛味を痛苦じゃなくって食の快美と感じた人。
それを己のが孤独の食の光景に封ぜず、よその人に大いに吹聴した人。
この最初の1歩の人の銅像のミニチャアが欲しいな、ボクは。


我が1番の好みは店じゃなくって、実は家でのおでん。その鍋。
具材は近所のスーパーでの安物。
練り物色々ごっちゃ、大根(半値になったカタチの悪いの)、タマゴ、すじ肉、こんにゃく、ジャガイモ、赤くないウインナ〜。
こやつめらを一同に鍋にする。
混沌として全体が淡い茶色な、チビチビやらないガッツリ鍋宇宙に湯気が立つ。
むろん、お汁はお醤油ベース。濃すぎず薄すぎず。
鍋から小皿にアツアツとってカラシつけてハフハフッ、が好き。
ビールなんて贅沢はしない。立ち上がりは発泡酒だよ。


でもってボクは、ジャガイモが崩れない方法を最近知って、大変に悦んでいる。
梅干しを鍋に2〜3ケ入れるのだ。
一緒にグツグツやがてトロトロ煮るだけだ。
これだけで驚くホド効果テキメン。
鍋から小皿に移そうとしてオイモを崩した経験はきっと誰にもあるでしょうがね、それが梅を入れて煮るだけで、もう崩れない。
表面しっかり中身柔らかジュ〜シ〜のアツアツ、になる。
梅に含まれるペクチンなる成分が熱せられることで化学作用し、ジャガイモの表層をコーティングしてくれるようなのだ。
といって、カチンコチンになるワケじゃない。
あくまでも基本は柔らか、かつ滑らか。
おまけに、実に微かながら、梅の香ばし味がジャガイモの味覚の中に追加され、これがおまいさん… ウメぇのよ。
ジャガイモに妖艶さが加わるのだよ。
で、一方で、タマゴなんぞには何も影響をあたえない。
梅の味がうつったりはしない。
タマゴはあくまでも王様としてチャンとタマゴの味のままだから素晴らしい。
おでんの王様は大根だという人がいるけど、ボクに云わせれば、それは身分の低い家臣ってなポジションだな。
鍋の中で唯一見事な球状形態を最後まで示し見せるタマゴの孤高こそ、王にふさわしい。
もちろん、この王はただの1ヶではいかん。
複数あるべし。
鍋という領土を幾重と分割する王達でなきゃ〜いけない。
この小国の王達を1ケ1ケ1ケ… 平らげていくキング・オブ・キングの喜悦がおでんの醍醐味ぞ。
白身部分はさほど熱くなくとも黄身部分はヒジョ〜に熱いよホットだわな、燃ゆる感触に舌を焼かれる快美こそが王たる者の印るしぞ。


ハナシがそれた。
ジャガイモを煮崩れさせない梅は紀州の味付けたようなものではなく、シソで紅らんだだけの田舎っぽいものがよい。
繰り返すが効果てきめん、である。


嘘だと思うなら、明日の晩やってみんちゃい。


※ 以上を記して、フッと… これは誰もが知るワザなのかもと思い立った。もし、そうなら、カッコわり〜けどま〜イイや。
よって今回、写真はなし。
ぁあああ、誰ぞ、オウチのおでん鍋に招待してくれんかの〜。
煮えたら即座に、
「おでんわください」
だ。