おとどし辺りから夏場、庭先でやたらセミの声を聞くし、夕刻の水やり時、金木犀にホースを向けると、ほぼ決まって、
「ギャッギャッ」
甲高い抗議の悲鳴が響き、羽音と同時に1つの影が速効で飛び出して行くのをみて、逆にビックリさせられるやらだったのだけど、
「セミがやって来る庭だにゃ〜」
くらいに思ってた。
けども今年はじめて、そうでないコトを知って、またぞろビックリを繰り返すのだった。
やって来たのじゃなく、住み込んでたのだ。
映画を観にいった翌日の朝… それらを目撃した時には、葉に取り付いた害虫と咄嗟に思ったけど、違うチガウ、大きさもカタチも違う。金木犀とその周辺の紅かなめの葉に、2つ、3つ、セミ幼虫の抜け殻がぶら下がっているのだ。
「まさか…」
で、周辺を眺めると、な〜んとそれが7つも8つもある。
でもって3日め…、
「おっ! いた!」
羽化後、まだ新生して数時間といったアンバイの成虫が木にとりついているじゃない。
たぶんミンミンゼミ。
羽根のふちがグリーンのと、そうでないのとがいる。
これが雄雌の違いか、別種かは… 知らないけど、なにしろ幼虫から羽化して成虫へと、新しい形態になったばかり、思うように動けないのであろう。そばによっても逃げるコトをしない。
逃げられないのだな、まだ。
だからといって触ったりしない。
そのまま放置する。
住民になってくれたのだから歓迎だ。
道路ぎわとはいえ、そこそこ金木犀の枝っぷりがよく、よい隠れ家になったのであろうし、その樹液がさぞや美味しいのであろう。一説によればセミは樹木の糖質を吸うらしい。
甘党だ。
先に書いたとおり1匹ではない。
なるほど、さらに良く観察するに木の根元界隈アチコチに穴があいてる。
そうか、その土中で3年だか5年だか… 幼年期を過ごしたか。
でもってノコノコ置きだし、木にのぼって枝葉の裏側で衣替えしたわけなのだから、発行してあげよう住ミン票。
以後、樹木への水やりも、冷水浴びせぬよう注意しよう。むろん住ミン税・市ミン税は求めない。
必ずしも都会じゃないし、されど田舎でもない、この中途半端なろくでない場所にそうやって住処を設けて複数が成長したことが、喜ばしい。
「おっ! なんだか先日の映画の巻頭のようじゃないか」
と、ラッセル・クロウが花を摘まないシーンを思い出す。
けど、云うまでもなく、
「神が作りたもうた花ゆえ、摘んではならぬ」
そんな見解じゃ〜ない。
ひどく、愛しいというワケでもない。共存というのもおこがましい。
ただもう、勝手に生活してちょ〜だいというだけのこと。
ただそのための、ある種の安全は保証してあげよう。すなわち、いきなり金木犀は伐採しないし、高圧な水をいきなりかけたりはしないよ… 程度の責任はもってあげよう。
ま〜、強いてセミの立場で言及すれば、この金木犀のある小庭が”約束の地”だったということになりはしないか…
…なりはしないね〜、そうカッコよく。
ちなみに成虫になったばかりゆえ、セミたちはまだ鳴かない。求愛行動の一環として大声を上げるのであろうから、もう少し先だな、鳴くのは。
鳴けば鳴いたで、いささかうるさいけど、まちがいなく、
"夏の声"
悪くない。
はるか太古、そこいらの神話よりも古い3億年前の石炭紀だか三畳紀だかのセミの仲間というか類似なヤツは、だいたい体長が70〜80cmあったそうで… よくぞ進化してここまで縮小出来たもんだと感心する。
もし、その80cmクラスのサイズで我が金木犀にとまってたりしちゃ、かなわん。夏のホラーになっちまう。ま〜、ある意味、そりゃ納涼だけど。