マティーニじゃないけど


ほぼ3時間半。赤(ごく僅かに茶)1色になったモニターを見続ける作業をやり続け…、ふと眼をそよがせたら、自分の手や腕や足(半ズボンだから)が、死人のそれみたいに真っ蒼に見える。
透いた蝋みたいで、静脈のラインが黒く暗っぽい。
さすがに「ギョッ!」とした。


近年顕著になった眼の疲労。チカメで作業をしていると、遠くのモノが2重に見え、かつボ〜ッと滲むというアンバイになるのだけど、我が手足が死者のそれに見えたのはお初だったから、おっかない。
しかし、室内を見廻しても他に色の変化は、さほど感じない。
これは赤色を見詰めた眼のせいでなく、事実カラダがマッサオになってるんではないかしらと、もういっぺん「ギョッ!」となった。
それで模型のための作図作業は止め、もちろん制作中のそれは"保存"し、肩を上下にユサユサしたり両腕をプルルと動かしたり、サンテ40を垂らしたり。


しばらく経つと変色がおさまった。
それゆえ、これが眼がワイルドになったのか、体色カメレオン化か… どっちなのかよくわからん。
あるいは両方なのか。
たぶんに、レッドカラーをジ〜ッと見詰めた"メダマ効果"なのだろうけど、嬉しくない。


こういう場合はもう仕事は止した方がいい。
グラスに氷をいれ、むぎのか(麦焼酎の安いやつ-ボクはこれを麦農家と言い換えて愛飲してる)を入れ、パッションフルーツ2ケをカットして中身をのっけて、グルグルステア。
すでに、1ケだとダメというコトをボクは知っていて、1ケだとパッションフルーツが活かされず、2ケ分ではじめて酒とフルーツのバランスが拮抗するんだ。(水割りにすると1ケで充分)




種ごとゆえ見た目はヨロシクない。
そも、スプーンでステアという所がすでにノ〜クール。オシャレでもない。
実を取り出したスプーンをそのまま使うという流用て〜たらく。
これをば、呑む。


『007/慰めの報酬』のヴェスパー・マティーニのスタイリッシュも澄明な鋭さもないけど、ただ… 同作ではじめて見せた酔っている007…、ボリビアに向かう機内で6杯続けてグラスを傾け、酔いに身を任せたボンド同様、
「ふ〜っ」
けだるい焦燥まじりの溜息はつける。
ま〜、もちろんその場合、ボンドは失った女への強い慕情と真相はどうだったのかの懐疑の、その狂おしさの「ふ〜っ」で、こちとらは、衰えゆく視力への「ふ〜っ」という次第で、悲哀のベクトルが違うのじゃ〜あるけど、1つ共通は…、
「呑んで癒されるわけもない」
という自明を知りつつ、呑まなきゃ、自分をうっちゃる事が出来ない… というトコロかな。


※ グラスの中の種は意外と口に運ばれない。徐々に沈潜してグラスの底に落ちる。なので安心(?)してパッションフルーツの濃い南洋な芳香を愉しみつつ、酔えるという次第。



ちなみに坂本龍馬はチカメであったらしい。近視だ。
なので、もしも… 彼が暗殺者から逃れ無事に生存していたら、
「これからはコレぞよ」
ピストルを捨て、メガネを自慢したろう。
むろん彼のことだから、従来の丸っこいのはダンコ拒むだろう。
起源の確かさは不明だけど、同時代の合衆国西部で使用例が見られたという説もあるから… いちはやく輸入して日本最初のウェリントンないしボストンフレーム野郎であったかもしれない。
で、
「コレは売れるぜよ〜」
てなことで、岩崎弥太郎あたりを支配人に仕立て、『メガネの坂本』を起業したかもしれない。



むろん本人は店頭にジッと立つ辛抱な人ではないから、きっと、店は岩崎あたりに任せ、自分は合衆国に渡って、そこでかつて河田小龍あたりから聞いて彼が感動したリンカーン(最近の教科書ではリンカンと書くのね)の演説とはいささか違う… 差別社会をまのあたりにして、ふっと歌心を弾ませて… 南部でフォークギターをおぼえ、プロテスタント・ソングの歌手になったかもしれない。
その場合の芸名は… ドラゴン坂本って〜なのがよろしかろう。
ただ、やはり、歌では喰えずで、毎月のように日本の岩崎に、
「至急カネ送れ」
であったろう。