蜜のあはれ

台風12号が接近中とはいえ、まだ蒼い空が見える日、『古市福子朗読の午後』に出向く。
元気印の彼女の声を聴くのは楽しい。
前年と同じ場所。観客席には憶えのある顔が幾つか。おや、イケちゃんもいる…。
この朗読会は年に1度の開催ながら、も〜1年経ってるんか? と思ったりするくらい、この頃は時間の流れを早く感じる。
だから、音楽であれ朗読であれ講演であれ… 同じ演技者のそれは、年に1度で充分なのだとも感じる。



オープニングの下田チマリ氏と中川貴夫氏かけあいによる詩篇『風の唄』は、小さなエピソードを20数篇積み重ねて、1枚の羽織りが編まれるみたいな、平坦さから立体に変じていく感じがあって、1種の心地よさをおぼえた。
老境の身の上というのが主題。
こういうのは40代頃にゃ聴くミミもたなかったけど、今や、ユトリをもって聴けるようになったのは、これは良いコトか哀しいコトか… そのような感慨もチラリわいた。

我が福子さんは室生犀星の『蜜のあはれ』の第1部を読む。
金魚と主人公の奇妙な性愛的関係の妙味がおかしく、これまた居眠りしてるヒマがない。
彼女は、ユーモアな中に性愛的な色が混ざるという感じな物語を読むと、実にいい味わいを醸してくれる。



C・イーストウッド監督、マット・ディモン主演の『ヒア アフター』は、津波にはじまり、津波にのまれたものの死から生還した女性キャスターが死生観を新たにし、自己の内面にわだかまったその思いの謎を解く過程でマット演じる"霊能力者"と最終的に出会うという、やや複雑な過程で話が進むが、重要なシーンとして朗読会が出てくる。
本を声に出して読むというのは英語圏では古くからあったワケで、英語というのはそれに向いた性質もまた濃いのだろう。
明日はおそらく台風で悪天…、『ヒア アフター』をまた観てみよう。
むろん目当ては朗読会のシーン、だな。マット演じる主人公がディケンズの朗読を好むというのが、よろしい。