タイムカプセル

 

 1970年の万国博覧会。開催中の会場へは何度か出向いたけど、「松下館」には入っていない。

 というか、当時は同館に興味のキョの字もなかったんだから、しかたない。

      

                当時の写真:万博記念公園のHPより

 

 1万本の竹で覆った宏大な池の中に、金属とプラスチック系素材で構築された和テースト全開の3階建てパビリオンというカタチが、10代半ばの当方にはピンとこなかった。

 壁面全体が2層だか3層な構造で、内部にナショナルの蛍光灯が仕込まれて、煌々まばゆく浮き立っていようと、その頃の脆弱な当方の感性では眼に入らないカタチだったわけだ。

     

     都築響一の本の表紙。ズラリ並んだ着物のコンパニオンが花魁ショーっぽくてキッチュ

 

 同館には茶室もあって上写真のコンパニオンが点てた茶を提供してくれたらしいが、基本はタイムカプセルの展示

 博覧会終了後に大阪城に埋蔵予定の2つのカプセルと、その中に収める諸々2千数余点がメインだった。

     

       当時の写真:万博記念公演のHPより。後方にもう1つのカプセルが見える

 

 タイムカプセルという発想は、これが最初ではないけども、日本の場合は、ナショナル松下電器)の宣伝が功を奏して、その名を広く伝え、万博以後、日本中の小学校やら中学校やらの卒業記念イベントとして「思い出の品を埋めて未来に向け保存」というのが大ブームになってった。

 

 展示された2つのタイムカプセルは博覧会終了後に大阪城天守閣の真ん前、地下15m附近に埋められ、1つは100年ごとに開封して保存状態のチェックという任務を持ち、最下層に置かれたもう1つは5000年後開封するというコトになっている。

                                  写真:大阪城観光ガイドのHPより

 

 5000年先ということは 西暦6970年……。

 卑弥呼が没したのが西暦247年だから以後現在まで、たった1776年が経過しただけなんだよ。

 卑弥呼も驚くであろう長大な時間を背景にした5000年先に向けてのプロジェクト。

 収納物は大丈夫なのか? 5000年先の日本人ってどんなん? というか日本って有るのか? 人類そのものが有るのか?

 諸々考えてしまう でっかいプロジェクト。

 

 

 現在のパナソニックのホームページでも、大きなボリュームで、このタイムカプセルを紹介しているけども、5000年先にパナソニックという会社が存続しているだろうか……。

 ま~、そんな「真夏の夜の夢」的なロマンを踏まえた上での現在進行形プロジェクトなんだから、悪かろうハズがない。

 

 

 で。

 最近、ヤフーオークションで競り勝ったのが、ナショナルの「タイムカプセル」。

 ほほ~、当時はミニチュアじゃなくって、ミニアチュアと云ったんだなぁ。よってここではそれを踏襲する。

 

 茶釜のような、骨壺のような、さほど面白くないカタチだけども、フタを開けると、黄金の松下館のミニアチュアが出て来たよ。

 黄金ったって、プラスチック素材に金メッキしただけのものだけど、イイでないの。

 このタイムカプセル模型は、1970年当時、ナショナルのカラーテレビを買えば、もれなくギフトされたノベルティグッズ

 もれなくと云っても、当時のカラーテレビったら全世帯あこがれの神器。持って誇れるステータスありな高額商品(1970年の普及率は30%台)。容易に買えなかったはず……。

 その販促物を53年後の2023年の今、よ~よ~、オークションで手にいれ、ニッタリほくそ笑んでいる私……。

 

 松下館の模型の下に丸い仕切り板があり、それを除くと、これまた金ピカの宝箱。

 いや、宝箱というより、『インディ・ジョーンズ 失われたアーク』に登場の金ピカな聖櫃(せいひつ)が想起させられ、これまたニッタリせざるをえなかった。

「おほほ、イイじゃ~ないの」

 と、そのフタを開けると、薄い油紙にくるまれた極小クリアケース。

 

 開くと、

「あらま~っ!」

 真っ赤な表紙の松下幸之助の著作「道をひらく」が安置されてんの。

 

 

 豆本だ。ちゃんと全ぺーじに渡り印刷され、文字ビッシリ。

 あたかも聖書、ミニアチュア・バイブルだね。

 いささかギャグのような感がしなくもないが、当時ギャグとして豆本を造ったとも思えず……、この掘り出しモノの結末にクラクラさせられ、聖櫃に翻弄されたインディ・ジョーンズ気分を味わった。

 

    

     

 

 松下幸之助には、ニンゲンとそれに向けての企業理念に想いを馳せた一種の哲学者の面もあったよう思えるけど、たとえノベルティな品とはいえ、いささかの、かましみたいな感もなくはなかった。

 けどまた一方で、企業とはいかにあるべきかの正論を説いた豆本を封印した「家庭用タイムカプセル」をば、カラーテレビを買った世帯にプレゼントして、

「未来に残して」

 と持ちかけている辺りには、やはり一種の、大きな陽性のユーモア松下電器という会社にはあったのかも……、と思ったりもし、あらためて1970年の大阪万国博覧会がもたらしたアレコレに、感嘆まじりの感慨をわかせるんだった。

 

 ※ 「道をひらく」は70年万博の2年前に出版された松下幸之助のエッセー集。

 ビジネス書の先駆けみたいな本で、店頭に並ぶや大ベストセラーとなり、当方、読んでおりませんけど、2023年現在も版をかさねて……、累計600万部を越えて売れ続けているらしいですな。