なんだかヘンテコなグッズ。
1970年万国博覧会で売られた、丸盆。
直径30cmと大きなモノだけど、素材はプラスチック。
よって熱いものに対応しない。熱い湯飲みなんぞを複数、頻繁にのっけると、やがては、ゆるやかにグンニャリと歪みが生じる程度なシロモノ。
実用にはヤヤ遠い、という所がヘンテコ。
中央はエンボス加工で立体。それゆえ、ここに茶碗を置くと安定悪し……
されど、このデザインがなんとも捨てがたい。
同博のシンボルマーク(桜)を中央に、周辺をレインボーカラーというかキャンディカラーというべきか、カラフルな色彩で埋めた演出がすこぶるイイ。
明るい放射が1970年の博覧会会場での「気分」を反映しているようにも見て取れる。
こういうカラーバリエーションは上手に使うと、実に効果的な「気分」が醸される。
たとえば1999年のアップルはiMacの宣伝でこれを活用し、お硬いイメージしかなかったコンピュータを甘味な物体に軽々と昇進させた。
「Yum.」は「美味しい」という食べ物コトバ。それをコンピュータの宣伝にあえて使ったのも特筆だった
70年の万国博覧会には「虹の塔」というのが、あった。
専売公社が出展した、銅鐸を思わせる背の高い(69m)パビリオンで、壁面は虹色に塗り分けられてた。
当時は子供だったのでタバコに興味なく、よってこのパビリオンを見上げはしたものの中には入ってない。
が、目立っていたコトは確か。夜になると虹色部分に照明が入り、文字通りレインボーの光輝に満たされた。
今に残る資料によると、150人乗りの円形リフトに着席した観客は、エッセー「パイプのけむり」でも高名な團 伊玖磨作曲の交響曲が流れる中、煙と映像によるショーを見物できた。
煙りたって、タバコのそれじゃなくドライアイスでの演出だけども、70年代当時、大量のドライアイスを用いてのアート演出は例がなくって、このパビリオンが初らしい。
ショーの終わり頃には煙の中から花柳流だかの踊り手が現れて、演舞した。
で、それを見た後はタバコに関しての展示物があるフロアに移動する……。
そうなってくると、もはや虹色のカラーリングの意味は薄れてくるけど、ま~、タバコ全盛の時代ゆえのパビリオン。
ちなみに専売公社は博覧会会場200ヶ所で、タバコを売ってた。
えっ! へっ? 200ヶ所もの場所で……。ワオっ、多過ぎ……。
博覧会会場内は禁煙じゃなかったのかな? となれば、オトナ達はアチャラコチャラで一服していたはず。
けどもタバコの煙で迷惑した記憶はまったくない。
ま~、当時は興味がなかったんで、それをソレとして感受しなかっただけなんだろうけど、還りみても、「虹の塔」のレインボーとタバコが結びつかない。
綺麗な虹とてもタバコの煙のように失せる。みたいな詩的発想があったとも……、思えない。
いま手元に、当時の同館で販売していたらしい湯吞みがあるんだけど、
「なんで、湯呑みなの?」
訝しんでる。
くわえて、デザインがつまらない……。
けどもま~、1970年という過去を掘り返せるシロモノには、違いない。
ヘビー・スモーカーで「パイプのけむり」という本が大ベストセラーとなった作曲家のオリジナル曲が轟く煙草専売公社のパビリオンというカタチに、郷愁混ざりの感慨をおぼえないでは、ない。
丸盆が醸す「明るい未来」的雰囲気と「虹の塔」の湯呑みとが、いまや閉ざされた未来として、「タバコ時代」の餞(はなむけ)グッズとして眼にはえる。
専売公社(現JT)とて、「よもや、こんな未来が来ようとは」と呟いてるんじゃなかろうか。
むろんに、タバコの撲滅というのは「良き未来」の到来というコトでもあるんだけど、いまだチョメチョメ吸ってる当方としては、痛し痒しな未来到来でもあって、タハハ……。何とも云いがたい70年万博の「虹の塔」の屹立。
ネットでみつけた「虹の塔」の写真